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悔恨
私は意気地なしだ。夫の危機を知らせようと、わざわざ夜明け前に夫の秘密の別荘まで押しかけておいて、いざ夫と愛人の純粋な愛の情事(のように見えた)を目の当たりにすると、足がすくんでしまって夫をむざむざと殺されてしまった。
嫉妬はない、と思う。けれどもどうだろう?自分の夫が愛人と抱き合って夢中になっている姿を見て、何も感じなかったかというと嘘だ。愛のない夫なのに、私の愛する人は別にいるのに、体が動かなくなったのは事実だ。
私はどっちが良かったのだろう。愛人に殺される夫なのか、愛人に殺されるのを私が救った夫なのか。でも、冷静になれば私は皇太子妃なので、夫が敵対勢力に倒されたとあれば、私の命も危うい。冷静になれば夫が殺されるのを救う方がいいのだ。それなのに……。
私の行動は自分で説明がつかない。あれが初恋の人なら、きっと……。
私はそこまで考えて身震いして、自分を叱咤した。
――そんなことをくどくど考えている猶予はないわっ!しっかりして、グレース。