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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ビニール袋の天使

作者: 兎紙きりえ

どっぷり暮れた夜。

燦爛と輝く太陽も地平線の底に落ち、

薄雲の、ちらり切れ間から覗く月明かりをもって夜は完成した。

がたんがたんと地を震わせた電車は、最終便が通り過ぎ、カンカン喚いたトラ色の遮断機は、すんと落ち着きを取り戻した現代の鳥居だ。

ふらり、道を歩けば重苦しく錆びたシャッター並木を、ごうごうの風が揺らした。冬だった。

衣擦れの音のやけに響く道に、どうして、街灯の、すぐの真下に置かれたビニール袋。

それがやけに気になった。

サッカーボール一つ程度に膨らんで、持ち手部分で縛られた上部は萎びて見える。

それほど硬く結ばれていない気がした。そこへ行けば、しゅるしゅる簡単に解いて、中身を見ることだって出来そうだ。それでいて、中身を見てしまえば惹かれるほどの神秘性も薄れるだろう。もうすっかり近い。数歩の距離にあるビニール袋へは足を向ければすぐだ。

けれど、そこまで考えて、やめた。

わざと街灯の、照らした外側を歩いた。

週の終わりというのもあるし、疲れていたのだ。

うんと気を奮わせて、好奇心に覗いて、さぁ、それでゴミ溜めの様相だったなら酷く落ち込むってものだ。

あの時やめときゃよかった。なんて後悔で折角の休日の気分に水を差すには惜しい。

なら、最初から見ない方がいいんじゃないかと思ったんだ。

そうして三歩、近づいたところで、カサリと音がした。ビニールの音だ。

途端に剥がれた神秘性から逃げるように、走って帰った。


翌朝。枯れたような朝に私は見た。

ぼーっと、付けたテレビの画面には見覚えがあった。

よく知る道だ。ビニール袋の置かれた道だった。テロップが流れて、その意味を理解する間もなく慌ててテレビを消した。

私はそれを知るのを拒んだ。

あの神秘性の真実を知りたくなかった。

あの皺くちゃの袋の内に、どうして幼子の、命の危機を知れというのか、無性に何かに腹が立って、そして、後悔した。

あのビニール袋の中身がそうであったと決まった訳では無い。テレビの電源を入れ直して映る画面は、既に別の事件へとその対象を変えている。ニュースの続きを見ることはない。

だが、と、スマホに伸びた指先を止め私は思った。

助けてあげられたかもしれない。

そう思うと途端に肥大化した罪の意識が全身の感覚を奪っていく。目眩と吐き気がぐるぐると周り、世界が歪んで見えた。

片手に握ったマグカップの、黒く淀んだ水面に私は映っている。

天使とは程遠い、人間の顔だ。

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