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「はぁー…」



俺は大きくため息を吐いた。椅子に思い切りもたれかかって天上を見上げる。一度パソコンから目を離して冷静に考えたかった。


プレイヤーの成長は順調。去年より遥かに自信があるくらいだ。問題は人間関係。


明日佳は昔から人付き合いが上手い。オフの日に遊んだりはしないが、クラスではいつも人気者だ。長津と雪寝も大分改善された。去年は二人とも惨憺たる交友関係だったが、今年はそこそこ上手くやってる。気になるのは1年の二人だ。


特に桐島だな。風間はまだ希望の兆しが見える。最近ではあの小田と仲が良いそうだ。出来ればプレイヤーに友人をつくってほしかったが、いないよりは遥かにマシ。桐島は酷い。絶望的だ。もはやクラスに桐島と友人になろうとする勇者はいないと報告があがっている。


多分一番仲が良いのは風間でお互い面と向かって悪口を言い合うくらいの仲らしい。しかもこれ、周りが気を遣うタイプの気まずさだから止めてほしいという相談まで来ている…。果たしてこれを仲が良いとして扱うかは疑問だ。


ストイックなのは結構。でも友人は必要だ。友人がいないと人は潰れやすい。挫けた時に真に助けになるのは親や先生、監督じゃない。結局のところ同じ目線に立っていない人間の励ましなどたかが知れているのだ。



「はぁ~…」



俺は視線をパソコンに戻して悩みの種と向き合う。そこには『翠晴高校』から提案された練習試合についての首脳陣の意見がまとめられていた。ちょうど意見が半分に別れていて結論は明日に持ち越しとなっている。


賛成派の意見も理解はできる。プレイヤーを試合慣れさせたいし、普段とは違う相手と闘うことで新たな発見も期待できる。『翠晴高校』なんて例年だと大した強敵でもなかったわけだし、こっちの手の内を晒してでも練習試合をすべき。………これに対して俺は論理的な反論は思いつかなかった。でもどうしても引っかかる。


先日の挑発はこの練習試合を俺に受けさせるためだったんじゃないだろうか。俺だってソラにあんなに好き勝手されて面白くない。やり返してやりたいとも思っている。でも、だからこそそれが罠に思えてならない。



「だけどなぁ…」



俺は再び桐島のことを考える。『ファイト・ファンタジア』は桐島の人間としての成長も描いている。復讐鬼だった彼女が仲間達と闘うにつれて人間味を取り戻す物語でもあるのだ。つまり『翠晴高校』には桐島と気が合う奴らが一定数いる、ということ。ウチで友人をつくるのが難しいなら他校でもいいからとにかく繋がりは持って欲しい。



…練習試合でプレイヤー同士が仲良くなるのはよくあることだ。強いプレイヤー同士はある種の仲間意識をもつ。しかし桐島だしなあ…。やっぱり確率は低いように思える。それに桐島に友人ができるかも、というだけでこの嫌な予感を無視していいものなのか。


……いや、逆か。嫌な予感がするというだけで首脳陣の理屈を曲げ、プレイヤーの成長の機会を奪うことこそ監督失格だ。


それに、ソラに何か目論みがあるというなら俺がその目論みを上回る目論みを建てればいいだけだ。そう考えた途端、全身にヤル気が満ちてくる。そしてソラへの怒りも蘇ってきた。


これが罠なら俺を出し抜ける…と思ってるってことだもんな。上等だ、どうにか吠え面かかせてやる。









「先週ぶりだね、拓翔。申込を受け入れてくれて有難う。」

「気にするな、ソラ。こちらとしても嬉しい誘いだった。お互い実りのある練習試合にしよう」



俺たちがバスから降りるとすぐソラが迎えてくれた。土曜日だが部員の活発な声が遠くから聞こえる。翠晴高校の部員は40名程度のはずだ。ここまで声が届くなんて、練習試合前なのに随分気合入った練習してるな。



「あれ、明日佳はどこかな? この前はすれ違ってしまったからね。久しぶりに挨拶したいのだけれど」

「明日佳? ああ、来ないぞ。」

「…なんだって?」

「なに驚いてるんだ? こっちが多すぎるから人数を絞るって伝えてあっただろ?」

「…拓翔、どんな手品を使ったんだい? あの明日佳が私の挑発を無視できるはずがない」

「ああ、アレ? 裏目だったな。おかげで狙いが分かりやすかったぜ」



やっとソラの歪んだ顔が見れた。ちょっと胸が空く思いだ。



「さぁ、時間がもったいねえよ、早く始めようぜ」



――――――――――



「おいおい、なんだ。あの1年…!」

「ホントに最後まで勝ち抜き戦で残りやがった!」

「嘘だろ…」

「これが…王者鹿王!」



普通に練習しているだけなのに周りがうるさい。ウチのトレーナー陣は周りにいてもメモとか録画するだけだから気にならないけど、この翠晴高校の部員たちはやたらこそこそ話してくるから鬱陶しい。



「あっちの1年もやばいぞ!」

「なんなんだよ、鹿王!」

「こんなの…勝てんのかよ?」



ギャラリーが風間の方に注目している間にあたしは隅の影に移動して腰を下ろす。別に疲れてないし、傍から色々言われるのが聞こえて鬱陶しいから休憩時間の方が面倒だ。いっそぶっ通しで練習か試合をさせてほしい。



「玲奈ちゃん?」



話しかけられた時は対応が面倒だと思ったが、こちらの機嫌を窺うような弱気な声に聞き覚えがあった。昔と変わらない痩せた足と腕、そう長くない黒髪を後ろで二つ縛った髪型。見るからにお人よしで人当たりのよい笑み。



「……タマ」

「元気そうだね」



タマ、伊林珠美は小学生の頃だけ私の親友だった。中学も同じで部活も一緒だったけど、色々あって疎遠になり、そのまま高校で別れた微妙な関係だ。


タマは私の横に体育座りした。



「鹿王なんて凄いね」

「入るだけならどこも同じでしょ」

「入ろうって思えるのが凄いんだよ。私なんかほら、翠晴でも精一杯だし…」

「翠晴だって弱くないじゃん」

「そうかな? ふふ、ありがと」



タマは変わった。昔は謙虚さの中にしっかりとした自分をもっていた。でも中学で下らない友人に合わせて自分を変えていく内に折角の気高さを失ってただの弱虫になった。



「でも玲奈ちゃんは昔から凄いよ。私みたいにブレたりせず、ずっとプロ目指してるもんね」



タマは自分を卑下して力ない笑みをこちらに向けてくる。あたしはどうにも耐え切れず立ち上がる。

これ以上タマと会話したくなかった。



「そうやって僻んでれば何か変わる訳?」



堪えようと思ったけどどうしても一言だけ怒りが零れてしまった。あたしも居づらくなって行くアテもないのに適当に歩き出す。



「気分は楽になる…かな? ちょっと惨めだけどね」



でもタマは空気を読まずについて来た。



「じゃあそのまま一生惨めに僻んでればいい。あたしは前に進む」

「ごめんね、玲奈ちゃん。」

「…何を謝ってるの」

「私もこんな自分を変えたい。……こんなの図々しいって分かってるけど友達に戻りたい」

「そんなの…!」



タマがどんな顔で言っているのか見たくて振り返った。そしたらタマが他の部員とは違うジャージを着ていることにやっと気づいた。確か拓翔さんが言っていた。翠晴高校にはレギュラージャージという伝統があってレギュラーは専用のジャージを着ていると……。



「もう一度だけチャンスが欲しい」

「タマ、あんた…」

「だから試合しよ?」



タマの声はまだ弱弱しい。でもあたしを真っすぐに見るその目にはあたしも知らない強さがあるような気がした。



――――――――――――――――――


不気味すぎるやろ。



「さぁ、みんな。拓翔がいなくても頑張るよー!」



拓翔さんを含むトレーナーのほとんどと選抜された40人のプレイヤーが翠晴高校に行っているのに、明日佳さんが上機嫌に部を仕切っている。妙だ。というか今日に限らず、最近ずっと明日佳さんは不気味なくらい機嫌がいい。



「なぁ、あれ。どう思う?」

「恐怖。確実に何かある」

「やっぱそうよなあ…」



普段の明日佳さんなら拓翔さんに置いていかれることなんて絶対許さんのに…。加えて相手はあの動画の相手、中曽根ソラがいる翠晴高校。大人しく留守番したあげく上機嫌なんて不自然すぎる。



「やっぱそっくりな別人なんかな?」

「提唱。エイリアン説」

「あー…、人間のフリして社会に馴染むタイプのヤツな」

「確認。確認してきて」

「絶対嫌。俺ホラー苦手や。だいたいどうやって確認すんねん」

「塩。映画では塩をかければ変身が解けた」

「塩? えらいB級くさい設定やなあ」


「長津? 私が喋ってるんだけど?」

「すいませんしたぁあ!!」



クソ、こういう時デカいと余計に目立つから俺だけ怒られるんよな。雪寝も素知らぬ顔しとるし…。



「ふふ、冗談。今日はトレーナーもあんまりいないしね。久しぶりに楽しくやろ!」



明日佳さんが可愛らしく手を上げると、部員たちが歓声の雄たけびを上げる。



「…俺、塩買ってくるわ」

「岩塩。岩塩で後ろから殴ろう」


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