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退院出来ました

「この度は大変申し訳ございませんでした」


 フラッシュとシャッター音の中心で深々と頭を下げる中年男性。

 彼こそ陽太の父親であり、朝日グループの社長、そして学園の有力支援者の朝日幸三である。


 あれから数日。陽太達は警察に事情聴取を受け、教育委員会もウチの学園に乗り込む始末。

 おまけにマスコミまで現れて授業どころでは無い、ということで休校になっていた。一応リモートで課題とかは出てたんだけどね。

 で、マスコミは当然被害者である俺の元にも押し寄せたのだが……


「で? こうなりたいなら来てもいいよ?」


 その辺のブロック塀を素手で粉々にした莉緒さんにドン引きし、全員去っていった。

 こう見えて昔はかなりヤンチャだった、らしい。

 詳しくは聞いてないよ。だって怖いもん。


 と、まぁ俺の入院生活は案外平和だった。


「あー、優馬? アタシ仕事辞めるから」

「え?」

 

 後、驚いたのは莉緒さんが仕事を辞めるって言ったことかな。

 遅いかもしれないけど、俺と向き合う時間が欲しいんだとか。

 正直、両親を亡くして生きる手段がない俺を引き取ってくれただけでも十分だった。なのに親として、改めて俺と向き合おうとしている。

 

「ダメダメな親代わりだけど、これからもよろしくね」


 ダメダメなんかじゃない。

 親戚という名の赤の他人を、優しく育ててくれただけでも莉緒さんは立派だ。

 俺はそう思う。



「退院おめでとう、もう何ともない?」

「はい、もうなんともありません」


 一か月後、俺は退院することが出来た。

 出血こそあったが、特に大きな外傷がなかった事が大きい。流石にほぼ寝たきり生活で体力は落ちてるけど。

 ちなみに莉緒さんは仕事。辞めるとは言ってたけどまだ少しだけ引き継ぎの作業があるみたい。


「一時はどうなる事かと思ったけど……本当によかった」

「ご迷惑をおかけしました……」

「確かに仕掛けたのは優馬くんだけど、あんな事をした朝日くんはもっと悪いわよ?」


 キッカケそのものを作ったのは俺だ。

 いつも通りの殴る蹴るで済むと思っていたが、想定外が起きた。

 ただ陽太達が社会的に殺され、天海さんがより俺に向き合おうとしている。ある意味トントンだとは思う。


「ようやくまともに学校に通えるなら、いいですね」

「優馬くん……」

「わっ……」


 俺を全身で抱きしめる志乃さん。

 相変わらずの程よい柔らかさと甘い香りだ。


「優馬くんの学校での楽しみが、増えて欲しいな……」

「あはは、頑張ります」


 正直、陰キャが虐められないだけで、劇的に何かが変わるという事はないと思う。

 まあストレスが減り、多少は平和になるだろう。それに新しい楽しみが増えなくても、俺は志乃さんがいれば十分だし。


「一応授業は来週辺りに再開出来るみたい。私も授業の準備はしてたけど……」

「けど?」

「先の授業まで準備してしまって暇なの」

「あらら」


 しっかりしてるなぁ。

 ここ何週間かはリモートの授業こそあったが、仕組みが整ってなくて課題オンリーだったし。

 俺のお見舞いをしている合間に、自分に出来ることをやっていたんだろう。

 

「じゃあ……デートでもします?」

「いいわね……」

「……期待してました?」

「別に……」


 身体をもじもじさせながら、視線を逸らす志乃さん。バレバレな態度がまたかわいい。


「出来れば明後日でいいかしら?」

「? 構いませんよ?」

「よかった……私、外行きの服をあまり持っていないから」

「あっ」


 そういえば俺も持ってない。

 ずっと家に籠ってたから必要最低限の服しかない。

 不味いなぁ。流石にいつも通りはダサすぎるから、ある程度見た目をしっかりしないと。


「……あ、明後日が楽しみですね」

「……そ、そうね」


 お互い妙な緊張感が走りながら、デート準備編が始まった。

 ちなみに服のセンスは? ある訳ないだろばっきゃろう。ネット友達にでも無難な格好を見繕って貰うかぁ。


 



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