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第5話 7日目/生存

「生きてる…?」

 あれだけの攻撃をモロにくらったのに、どうやら私は生きているらしい。体中は痛み動かすことが出来ないものの、腕が無いとか、足がないということはなく五体満足だ。

 視界はまだぼやけているものの、黒い大きな物体が目の前にいることだけは分かる。どうせあの怪獣だろう。


 怪獣がまだ私にとどめをささない理由は分からないが、どうやら私の様子を伺っているようだ。私に何をするつもりなのだろうか。やはりパクッと私を食べて胃におさめるつもりなのだろうか。今は生焼けじゃないかって様子見してるだけだったりして…。

「どうでもいいか。抵抗する力も何も残ってない。痛みとか苦しみとかさえなければ、もう死んじゃっていいや」

 私は諦めて、目をつぶる。

 最期の言葉とか、家族・友人に(のこ)す言葉とか、そういう辞世の句みたいなものを魔法少女になってから何度も考えた。でもどんな言葉を(のこ)そうとしていたのか思い出せないし、浮かんでもこない。

 それに、今ここには、誰も居ない。言葉を(のこ)したところで、受け取ってくれる人がいない。

 私が家族に遺した最期の言葉、友人に遺した最期の言葉、そして本当に遺した最期の言葉ってなんだったのかな。


 ベロンッ―――。

 

 そんなことを考えていた私を何かが舐めた。何かといっても、心当たりは1つというか1体しかいない。

 つぶった目をゆっくりと開ける。やはり怪獣がタラコ唇から舌と(よだれ)を垂らしている。

「やっぱり、私を食べちゃうつもり…なのか」

 

 ベロベロベロ―――。


 つま先から頭の先まで舐められる。気持ち悪くて仕方ないが体はまだ動かせそうにもない。

「味見なんてせずに、いっそのこと一口で、一思いに楽にしてくれていいのに」

 本当に最悪だ。やっぱり魔法少女の最期なんてろくなものじゃなかったな。創作で出てくる主人公やヒロインと同じ。

 最初は他人と、皆の普通とは違う特別な力を使って人を救って、その全能感に半ば酔うように楽しく過ごす。でもその光によって生まれる闇にそのうち気付くんだ。特別な力をもっても救えない人とか心とか、力の代償とかそういうのに。それでも最期はハッピーエンドって信じて戦う。

 私もそう。魔法という特別な力に酔って、家族や友達よりとの楽しいより、知らない人のために戦った。だんだん周りの人との溝が深まって孤立した。それでも仲間の魔法少女たちがいるからって気付かないふりをして、たまにはその魔法少女と傷を舐めあったりして。

 今もそう。他人のために自分を犠牲にして、こんな怪獣と結界に閉じ込められて戦って…。そして負けて(もてあそ)ばれるように舐めまわされている。それでもまだ最期じゃないってどこかで信じてる。仲間の魔法少女たちが助けにきて、怪獣を倒して、私も皆も世界も救われるようなハッピーエンドがくるって。


 ベロンッ、ベロベロ。レロレロレロレロ。レロンッ―――。

 

 私が最期を最期らしく、いろいろ考えて、これまでを嘆きながらも、これからに希望的観測を行っているのに、怪獣はずぅーーーッと汚い舌で私を舐め続け、私を涎まみれした。

「っていつまでもベロベロ・レロレロって舐めるんじゃないっ!!」

 私も我慢できなくなって、顔の涎を両手で拭きながら、怪獣に怒号をとばす。

 怪獣は私の怒鳴り声に驚いた様で、舌を口内にしっかりと戻すとタラコ唇にグッと力をいれて、お口をチャックをしたようだ。


「あー。もう本当に最悪。可愛らしいフリフリのドレスの戦闘服がビチョンビチョンでベットベト」

 ずっと怪獣に舐められていたせいで、変身した私の青色を基調としたドレスの戦闘服は酷いものだった。それに切ったばかりの髪もベットベトでぐっしゃぐしゃ。

 体や髪に残った怪獣の涎を手でぬぐい取る。粘り気があるせいで中々とれないし、気持ち悪い。これに加えて(くさ)かったら泣いていたけど、匂いだけは少し甘くて爽やかな良い匂いだった。

 

 しばらくそうして体を綺麗にしていて、ようやく可笑しなことが起きていることに気が付いた。目が覚めたときは、あの攻撃のせいで体中が痛み、動かすことが出来なかったのに、今はどこからも痛みを感じないし、体も普通に動く。

「出血がないどころか、体に1つも傷がない」

 改めて確認してみると、服にはところどころ破けたり裂けたり焦げているのに、その下の肌には打撲痕も裂傷も火傷もない。正しくは体にあるはず傷がなくなっている。

 

 私は自分に治癒魔法を使っていない。使うための魔力も気力もなかった。実際、あの重症を治すほどの魔力は今もない。 

「思い当たるといえば…」

 私は手についた怪獣の涎をみる。『怪我をしたら唾をつけとけば治る』という言葉が頭をよぎる。

「まさかね…」

 でも人間の常識とか通じないだろし、万が一もあり得る。そして本当だとしたら、あの重症の体を唾液だけで、舐めるだけで治るとしたら、治癒魔法を使うなんて馬鹿らしくなっちゃうな。


「念のために確認しておこう」

 私は土属性の魔法を応用して、小さな刃物を作って、その刃物で小指を切りつけた。小指からは血がぷっくりと出て垂れ始める。

 そこに手に残った怪獣の唾液を塗ってみる。すると傷口は閉じて出血が止まった。

「やっぱりこの怪獣の唾液には治癒効果があるんだ…」

 ということは私が今こうして動けるのはこの怪獣おかげってことか。もしかして生きてるのもこの怪獣おかげってこと?感謝しなきゃいけないのかな。でも元はといえば、この怪獣の攻撃で、私は重症で死にかけたわけだしな…。


「私を殺しかけたことは許さないけど、というより貴方のことの存在も何もかも許さないけど、私を治して生かしてくれたことだけは…、いちおう…。感謝する…よ」

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