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誕生日  作者: 井島一
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誕生日

昨日、27歳の誕生日を迎えた。

それは逆に言えば26歳を終えた。という意味でもある。

いけない、また悲観的な文章に、まぁでもいいだろう。私は文章を消すのを辞めた。ありのままを書こう。思うがままに。自由でいい。ここだけは。文章だけは。


詩と小説の間のようなものを書いている


と彼女は店員と話していた。彼女は嬉々とした表情でそれを店員の男に見せていた。きっとその男のことが好きなのだろう。


私は彼女がどんなものを書くのか気になった。でも読ませてくれとは言えなかった。誕生日なんだと言えば読ませてくれただろうか。それも言えなかった。いや、言った。性格に言えばそれは伝わった。私の隣に座った男が話の中で奇跡的にも私の誕生日がいつかを聞いてきたのだ。私はバーで話し掛けてくる男の会話を人生で初めて幸いに感じた。私はそっけのない感じで今日の日付を言った。男はそうなんだじゃあその日にお祝いしてあげるねなんて言ってきたが、それを聞いていた彼女が「今日じゃない!おめでとう」と言ってくれて私は突然の黄色い響きにたじろいで「どうも」と言うのが精一杯であった。

そんな気のきく彼女はきっと、素敵な恋愛をして生きていくのだろう。私も彼女のように誰かの誕生日をさらりとお祝いできるような、ゆとりと温かさを持った心の在り方を目指して生きていきたいと思った。


女になったつもりでこのような文章を書いた。そうすることでこれがフィクションであると私自身の忘却を、心の舵をとるためでもある。でも読み返すと、実際にはまだ読み返してはいないが、やはり男が女のふりをして書いた文章である。また悲観が、いや、良い。予期に計らえ。誕生日なのだから想像を膨らませてもいいであろう。誕生日でなくとも膨らんでいるが、嗚呼、もうすぐ私の誕生日が過ぎてしまう。年に一度の主役の日、いや、27の誕生日は一生に一度だと言うのにこの体たらく。スターバックスで抹茶フラペチーノをケーキに見立てて飲んでるわ。ハッピーバースデー。今日が誕生日だと伝えていたらカップに何か特別なものを書いてくれたであろうか。そんな人間ごまんといそうだし特別でもなんでもないか。プレゼントは買っていない。欲しいものが思いつかなかった。母に何か欲しいかと聞かれたが私は何も思い付かず、かといって何も要らないと言っては却って母を不安にさせてしまうと思い、ショッピングモールで目についた水筒をかごに入れた。こんなものでいいの?と言ったが水筒が欲しくて困っていた。と訳の分からない日本語で応答した。水筒などすぐ使わなくなりそうだ。今日だって水筒を持つのも忘れ、結局水をコンビニで買ってしまった。悲観。悲観。もう嫌だ。辞めよう。27歳の抱負は、嗚呼、去年も2021年の抱負で「悲観的な文章を書かない」と言ったのに。もう破ってしまった。悲しい。


今、たった今の出来事を書く。2021/4/24(土)19:00丁度。


文章の途中ではあるが神様からの贈り物を書かないわけにはいかない。


親子連れに席を譲ったら子どもが、小さな天使のような子どもが私を追いかけて来て「ありがと」と言ったのだ。嬉しい。幸福だ。こんなに素敵な誕生日プレゼントをくれるなんて。言霊が心に染みる。嗚呼、この文章を書いてなければもっとその感覚に浸れていたであろうに。顕示欲、悲しい。snsをずっとやっているものを批判的にみていたのに。私もそうだ。きっと私に顕示欲があるから、もういい。もういいもういい。やめよう。幸せだったじゃないか。いま浸ればいい。文章に残したいと思ったのならそれでいいじゃないか。幸福に浸ることよりも、後世にその嬉しさを残すことを判断したのだからそれでいいじゃないか。胸をはればいいじゃないか。俺。俺よ。いいじゃないか。君は生きている。存在している。それが分かっただけでもいいじゃないか。幸福だ。ありがとう世界よ。神よ。宇宙よ。母よ。ショッピングモールの水筒よ。スターバックスをつくりし国よ。産業革命よ。この世に憎しみなんて存在しない気がする。

誕生日。母が腹を痛めた日。そして毎日が誰かのソノヒである。そうだな。気付きをありがとう。さよなら。

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