第2話 初戦闘
時が戻ると同時に断末魔が聞こえ出す。
私は近くにあった路地に入り、魔法少女に変身する。
淡い光に包まれ、1人の少女が出てきた。
「ふむ...。若干若くなった...?」
手をにぎにぎして感触を確かめる。元々艶があった肌はより一層ツヤツヤとしている。髪は元の黒髪とは違い白髪へ。着ているものは膝下まである黒のコートだった。
...魔法...少女...?
姿だけ見ると魔法少女じゃなくて悪の女幹部そのものみたいな見た目なんだけど...。まぁ。どうでもいいや。それよりもう行かないと。悲鳴が凄いことになってるからね。
そうしてコツコツと黒のブーツを鳴らしながら路地から出る...前に《夢》というスキルを使う。対象はここら辺の人皆。
スキルを使うと私を中心に薄い膜のようなものがブォンと音を立てて半球状に広がっていきとどまった。...恐らく半径50m位だろう。
あの時ヤミにスキルの名前を言われた時、何故か頭の中にスっと入っていくように用途を理解した。
《夢》。これは夢の空間を創るというもの。当然夢の支配者は私。夢だからここでは私の姿は見えなくすることもできるし時間をズラすことだってできる。そして、スキルの境界線も見えず、範囲内にいるものは夢の中だとも気づかない。なんというスキルだろうか。とても面白い!
...だけど2つほど欠点があって、自分よりも強い相手には効かないのと範囲外の相手には普通に見えるということ。後者の方はどういうことかと言うと、例えば私が夢と現の狭間にいるとする。この場合、夢の範囲内にいる人ならば私姿を認識出来ないのだ。それもそのはず、夢と現の狭間だから夢であって夢ではなく、現実であって現実ではないからだ。だから、私よりも弱かったために夢に落ちた人にも見えず、私よりも強かったために夢に落ちず、現実にいる人にも見えないということだ。まぁ、これも例外があって、本当に強い人。私よりも数倍、数十倍も強い人には感知出来てしまうから要注意だ。
話を戻すと、夢の範囲外にいる人は私の姿が見える。範囲内にいる人には認識を誤魔化せるけど、範囲外にいる人には誤魔化せないためだ。
要するに範囲外にいる人は範囲内にいる人がおかしく見えるってこと。中にいる人が何に怯えているのかが分からないために困惑する。
難しい。
でも、それさえおさえておけば面白いスキルだろう。
《物質生成》はなんでも出せる。それを使って黒いナイフを生成する。
これで準備は完璧だ。いざ、出陣。
───
─
現在、私以外は全て夢の中にいる。私は現実...いや、さっき言った夢と現実の狭間にいる。その為現実に居ても私の姿は見えないことだろう。
逃げ惑う姿は変わらず、だが、その全ては自然と私を避けていく。夢の中で何が出来るのか...色々できる。例えば幻覚を見せることができる。そこに人間がいる。とか、自分を害する人間がいるとか。夢に落ちた者を誘導するのは容易いことだ。
そんな訳で私は堂々とポケットに両手を突っ込んで人間を手で弄ぶように手加減している...実際には手は空を切るだけだが...魔獣の元へと歩く。もちろん弱いながらも攻撃しているとはいえ誘導しているから人的被害は一切ない。
そして、近づいた後...
──ザザザザザンッ!!!
現実ではありえないようなスピードで斬りつける。
それもそのはず、ここは現実であって夢でもあるのだ。夢ならばなんだって出来るでしょう?それに、夢でなくとも魔法少女になった今ならこれに劣る動きができる。研鑽を積めばいずれ夢でなくても出来るようになるだろう。
ただし、今はまだ夢なので魔獣に付けた傷を現実にする必要がある。それをするには魔力と呼ばれるものが必要だけど自動で消費して現実化するからまだ気にしなくていいかな?多分無くなったらこの夢の空間も無くなると思うし。
血だらけになっても自分は健康だと夢見ている哀れな魔獣を一瞥し、ビルの屋上に飛ぶ。...これももちろん夢だからできる技だ。ちなみに魔法少女となった今なら(ry
──パチンッ!
右手で指を鳴らすと夢の空間が割れる。そして人々と魔獣は夢から醒める。
「ガ、ウ...?」
血を失ってても動いていた魔獣が急に動きを止める。そして
──ドスゥゥンッ...
体長5mはある大柄の狼が倒れ、周りにいる人々は皆困惑した表情をする。そりゃそうだよ。さっきまで(夢の中では)生き生きしていた魔獣が急に倒れたんだもの。しかも身体中に傷を付けて、ね。
「これならまたやっても面白いかな...。趣味にしてもいいかも...。ふふふ。」
終わった後、私は独り言を言いながら何食わぬ顔で家に帰っていった。
──────
───
ねむが帰ってからほんの数分後。緊急の報せを受けていたB級魔法少女はこの惨劇をみて困惑していた。
「...何よ...これ。」
街にはほんの少しだけしか被害がなく、死人も見たところいない。
「あの魔獣はC級だよ!?なんで...こんな...?」
いくらB級魔法少女でもここまで被害なしで戦うなんて無理である。少なくとも街は半壊するほどC級魔獣との戦いは困難なものだ。それを...こんな...。
「いったい...誰が...?はっ!まさかA級かS級?」
1人困惑しながら国が運営する魔法少女省から来る車を待っていたのであった。