第97話 アッダムの使徒
諜報員は滞在していたホテルから出て、そこから少し離れた、レストランに入った。一人でいるより、人目が多いところを選んで移動していた。
マリが
「対象者が止まったよ。すぐ近くのレストランにいるみたい」
ドニーズ中尉はレストランの少し手前で車を止めた。
「じゃあ、みんなはここにいて、私一人で行ってくる」
そこで葉子が
「マリさん、何かありましたら、すぐに呼んでくださいね。念のためこの拳銃を携帯してください」
マリはそれを見て、
「小型拳銃P232SLね。よくこんなもの持ってましたね」
「セーフハウスは武器の宝庫でしたから、拝借してきました」
「ありがとう、でも大丈夫よ、武器なんて持っていたら、警戒されるから」
そう言って車を降りて、レストランにマリは向かった。
ここは、西洋風のレストランのようで、中東の個室で、カーペットに座り食事する店とは違い、
テーブルとイスがあり、日本でもよくみかける、普通な感じのレストランだった。
マリは、お店の扉を開けて、店内を見渡して、対象者を発見、そのテーブルにまっすぐ向かって行き、声をかけた。
「ボンジュール、私はフランス政府の者です」
突然、現れた、少女に諜報員は驚いた様子で
「だれなの、あなたなんて知らないわ、それに、子供が一人でこんなところにいたら、あぶないわよ」
マリはニコっと笑い
「私は治安情報局、局長マリ・トビシマ。シャルロット中尉、長官から、任務中止の指令書が出ています。確認してください」
こんな少女が局長なのと驚いた顔でシャルロット中尉はマリを見た。
そして、マリは指令書を出して、中尉に見せた。中尉はさりげなく、その指令書を見て、しばらくして警戒した顔から急にやさしい顔に変わり、マリにビズ(頬にキスする挨拶)をしてきた。
「ごめんなさい。あなたが、こちらの国の組織の関係者だと思ったから」
「組織?」
「え~そうよ。アッダムの使徒と言って、世界中にその使徒はいて、どこで、情報が漏れるか、まるで、わからないのよ」
「そんな組織、いつ、だれが造ったんですか?」
「うわさでは、有史以前から、あるみたいで、その使徒の家族は代々、血の結束により、その使命を命がけで実行する。普段は普通の人でも、ひとたび、指令があれば、残忍な暗殺者にも変貌する。
幼い時から、秘密裏に教育・訓練されていて、さまざまな国に潜んでいる、とてもおそろしい組織よ」
マリはその情報を聞いて、油断だけはしないように気を引き締めた。
「シャルロット、さきほど、諜報員のトニー少尉が爆発事故で重傷よ。ギリギリのところで我々が救出したけど、ウチのチームのメンバーも2名重症になったわ、わたしと一緒にセーフハウスまで行きましょう。そこにいれば安全だから」
「セーフハウス?」
「そうよ。知らないの?」
シャルロット中尉は急に顔が青くなり、少し震えるように
「マリ、だめよ。あそこは、やつらに場所がばれてるわ、それに監視されているわよ。
すぐにチームのメンバーを引き上げさせて!」
マリもびっくりして通信機で
「イブ、ダニエル、そこから逃げて!」
通信をしたが、返事がない
「イブ、ダニエル!」
マリはもしかしたら、我々も着けられているかもしれないと思い
「ドニーズ中尉、すぐにレストランの前まで車をつけて、ここから、逃げるわよ!」
「了解」
「シャルロット中尉、一緒に来て、行きましょう」
「わかったわ」
マリとシャルロットはすぐにレストランを出た。
車に乗り込んだシャルロットは
「100m先を右折、そこから300m先を左折して」
「了解」
「マリ、すぐにこの車を捨てるわよ、秘密の倉庫から違う車に乗り換えるわよ。急いで」
そうシャルロットが言った途端、すぐ後ろから、乗用車が機関銃を撃ってきた。
「バババ・・・」
ものすごい音がした。マリ達の車のバンバーが落ちた。
マリはイブやダニエルが殺されたのではないかと思い、怒りが頂点に達していた。
そこに、機関銃を撃ってきたから、マリは完全にブチ切れた。
そして気をためて車の天井を気功波でブチあけて、車の屋根に飛び乗った。
葉子は屋根に乗ったマリを見て、すぐに松田松濤館流秘奥義雷鳴の型をしているので
「ドニーズ中尉、できるだけ車を安定させて、マリさんが後ろの車を排除するから」
それを言った途端、周辺の音が全く聞こえなくなった。その瞬間、車の上から、ものすごい音がした、
「バリバリ、ババ~ン・・・」
まるで、雷が落ちたような音がした。そして、後ろから、追いかけていた車はそのとんでもない気功波で空中に吹っ飛ばされた。葉子はその様子を見て、マリさんの真の力はこんなにすごいのかと、体中に衝撃が走った。
マリは車が排除できたのを確認すると、車内に降りてきた。
シャルロットはマリを見て、この人はなんなのと驚いた顔をした。
「ドニーズ中尉、セーフハウスに急いで!」
マリは大声でドニーズに指示した。
「マリ、あそこは簡単に中には入れないように強固な造りになっているけど、たぶん、もう
組織の連中に包囲されているわよ。
中にいるチームの人も、恐らく、通信により、自分たちの所在や、私達のことがばれないように、
たぶん通信を切断しているだけだと思うわ」
「じゃあ、シャルロット、セーフハウスにいる2人はまだ、無事なの?」
「あそこから、でなければ、おそらく無事よ、でもこのまま、あそこに向かったら、
敵の罠に飛び込んでいくようになるわ」
マリはシャルロットを見て、笑いながら、
「ユウキ、武装している敵は何人いる。それと居場所を教えて」
車は乗り換えず、最短距離でセーフハウスに向かう車の中で、ユウキはサーチをはじめた。
ユウキの球体は淡い光を発し、その状況を確認した。
「武装している敵は全部で7人、セーフハウスそばに2人、向かいのビルにスナイパーが2人、
武装した車でハウスから南西に50m離れた建物裏に2名、それと、北側100m離れた車に1人、たぶんこの1人が司令塔だと思われる」
「了解」
ユウキ以外のチーム3人は声をそろえたように返事をした。
シャルロット中尉は現地で確認もしていないのに、どうして敵の位置や装備までわかるの?
不思議そうな顔でユウキを見た。
そこでマリは
「ドニーズ中尉、この司令塔の男のところにまっすぐ向かって、ユウキ最短距離で誘導してあげて」
「了解」
「葉子さんとシャルロットは向かいのビルのスナイパーを黙らせてくれる。
でも、できるかぎり、殺しはしないで、どうしようもない時は、個々の判断に任せるけど、
人殺しは恨みの連鎖しか生まないから、極力、しないでね」
「わかりました」
それから、車は5分程度でセーフハウス前に着いた。




