第84話 警視庁での珍事
「早くしろ!ユウキ」
日曜日の朝、昨日の切り裂き魔のアジトと思われる場所を突き止め、これから、そこに行こうとしているイブはのんびりしているユウキにイライラしていた。
「なんだよ、今、ベータの渾身の作のショートケーキを食べるところなんだ。もうちょっと待ってよ」
「そんなもん、帰ってから食べろよ。早くしないと、親玉に逃げられるだろうが」
「日曜日の朝ぐらい、静かにしてくれよ。毎日、毎日、そんなに、慌てていたら、体によくないぞ、それに、その親玉だって、いるかわからないんだろ」
「わからないから、早く行って確かめたいんじゃないか、そんな小さいケーキをチビチビ食べないで、一気に食べろよ」
「イブと違って、そういう下品なことはしないんだよ、ぼくは、もう少しだから、ぼくのティータイムを邪魔しないでくれよ」
ユウキは昨日、犯人を逮捕することができたことで、あまり、あわてることはないと、自分で判断していた。それを見かねて、マリが
「ユウキ、ケーキもいいけど、イブがあんなに一生懸命になっているんだよ。だから、すぐに行ってあげようよ」
ユウキはマリに言われた途端、
「承知しました。マリ、では、すぐに行きましょう」
イブは自分が頼むと何もしないくせに、マリが頼むとすぐにその指示に従う。相変わらず、腹が立つ男だと、つくづく思った。
「おい、イブ、行先を指示してくれ」
「あ~わかった、モナコ公国、モンテカルロ地区にあるカジノ裏のアパートメントだ。座標は北緯43度・・・東経10度・・・だ」
「了解、移動する」
3人の体が赤く光り、パリから、モナコへ移動した。
「シュ~」
モナコの建物に着いた3人は発信場所と思われる室内に足を踏み入れた。
「なんだ、なにもないじゃないか。本当にここで合っているのかイブ」
「間違いない、昨日はたしかにここから、発信操作されていたはずだ」
「どうやら、イブに逆探知されたことに気づき、機材をすぐに移動したんじゃないのか」
「おかしいな、私が、確認したのは、ほんの一瞬だったはず、それも、この世界の人間にはとても理解できない方法で突き止めたはずなのに・・・」
「もう、しょうがないよ、イブ、誰もいないんだから、どうしようもないよ」
マリもこのガランとした部屋を見て、そう思った。外にはまぶしいくらいの青空と、きれいな海が広がっていた。
「でも、ここはすごく景色がいいよね。フランスと違って日差しも強いし、日焼けしちゃうね」
マリは、能天気なことを言っていたが、イブはせっかく、見つけたアジトに誰もいなくて、とてもくやしがった。
「お前が、ケーキなんか、チンタラ食べているから、逃げられてしまっただろうが」
「ケーキは関係ないだろ。昨日のうちに親玉は移動したんだよ、だから、昨日、帰りは空港からタクシーで帰ろうと言ったんだよ。それをイブがかったるいとかいうから、昨日は瞬間移動ができずにこうなったんだろ!」
「もう、やめて、二人とも、とりあえず、昨日、犯人を捕まえたんだから、いいじゃない」
「はあ~、昨日、逮捕したやつも、下っ端だから、たいした情報も持っていなかったしな」
そんな話の中、マリに電話が鳴った。
「もしもし・・・」
「大将ですか?」
「はい、マリです」
「エマです。あの~、ちょっと、お耳に入れたい情報がありまして」
「エマ、どうしました?」
「今日、息子と、警視庁の見学に来ていたんですけど、その時に偶然、昨日逮捕した犯人を口封じに来た、男がいまして、さきほど、アンドレや警察の皆さんで、逮捕することができました。これから、尋問をするところです」
「え~、あれだけ、用心深い犯人の仲間をよく、見つけられましたね」
「まあ~、セドリックが時計オタクだった、おかげなんですけどね」
「時計オタク?」
「まあ、それはあとでくわしく話しますので、大将、どうされます?このままだと、切り裂き魔もその仲間の暗殺男も逮捕したのは治安情報局で、その犯人たちの組織を挙げるのは警視庁で、もしかしたら、我々の手柄も全部、この警視庁に持っていかれそうな気がするので、急いで、大将に連絡しました」
マリは、しばらく考えて、
「確かに、それは面白くない話ですね、そんなことになったら、イブが切れてしまい、大変なことになりますよ。絶対!」
イブとユウキはマリが何の話をしているのか、不思議そうにこちらを見て、
「マリ!何かわかったの?」
ユウキもマリの方を見て
「うん、なんか、昨日の逮捕した犯人を口封じに来た男をエマさん達が警視庁で偶然見つけて、さっき捕まえたみたい、それで、今連絡くれたんだけど」
イブは、生き返ったような顔をして、
「じゃあ、パリ警視庁にこれから、行くしかないでしょ」
やっぱり、こうなるな~とイブを見ながら、マリは
「エマ、これから、すぐにそちらに行きます。できれば、お忍びではなく、正面から堂々と入り、治安情報局が逮捕した2人を優先的に尋問させてもらえるように、そちらの責任者に話を通してもらえますか?、エマも知っての通り、イブは頭をさわると、すべての情報を引き出せる能力を持っていますから」
「わかりました。話をしてみます。それと大将、明日から、セドリックは技術開発をする人間として、局に行きますから、よろしくお願いします」
「セドリックはやはり、物を作ることが好きですからね。私もひとつ、作ってもらいたいものがあるので、これから、期待しています」
マリはユウキを見て
「了解、パリ警視庁に移動する」
また、3人の体は光、パリへ移動した。
エマはすぐさま、アンドレに事の経緯を話し、シャルル警部補に話をしてもらった。
「シャルル、今、連絡が入り、うちの局長が補佐官2名とこの警視庁に来ることになった。そこで、先ほど捕まえた犯人と、優先的に尋問をさせてほしいと言っている」
「優先的にか・・・まあ、こちらとしても、2人を逮捕したのは治安情報局だから、ダメだとは言えないところだが、ちょっと待っててくれ、警部に確認してくる」
アンドレは警部がいいとか悪いとかじゃなく、間違いなく、あの3人が来たら、おかまいなしに尋問することはわかっていたが、事前に話ができただけでも良かったと思った。
しばらくして、シャルルが戻ってきて、
「アンドレ、OKがでたぞ。それで、局長はいつ来るんだい?」
「もう、正面玄関の前で立って待っているはずだよ」
「本当か!もう来たのか、じゃあすぐに迎えに行ってくる」
シャルルは大きい声で刑事部の人間に
「お~い、治安情報局の局長と補佐官が来るぞ~、手の空いているやつは、正面入り口まで一緒に来てくれ」
そうシャルルが言った途端、日曜日に出勤している、職員10人ぐらいが反応して、治安情報局には、どんなすごい人達がいるのか、興味津々でほとんどの者が正面玄関に走って行った。
その頃、マリ達は、警視庁の近くの人目に付かないところに瞬間移動して、そこから歩いて
警視庁建物の外、正面に立って待っていた。
「エマ、遅いな、話がうまく通らなかったのかな?」
「もう、マリ、早く中に入ろう、こんなところにいても、しょうがないよ」
「そうだよね。ちょっと電話してみるかな~」
その時、正面の扉が開いて、警視庁の担当者らしき人物が一人、こちらに声をかけてきた。
「お待たせしました!」
と急いで走ってきて、勢いよく声を出したが、そこには高校生ぐらいの男女3人が立っていた。
シャルル警部補は驚いた様子で
「あれ、子供?」
治安情報局の大柄で年配の者が来ることを想像していたので、違う人だと思い、
「どうしたの、君たち警視庁に何か、用でもあるの?」
それを聞いたイブが
「なんだ~、局長に向かって、何か用でもあるの?じゃないだろ、お前、なめているのか!」
マリは笑いながら、イブを左手押さえながら、可愛い洋服のポケットから、身分証を出して、
「ボンジュール、フランス治安情報局の局長、マリ・トビシマです。それと、補佐官のイブとユウキです」
シャルル警部補はびっくりして
「あなた達が・・・治安情報局なんですか?」
そこに遅れてきた職員達も
「警部補!情報局の人たち来ました?、我々にも紹介してくださいよ」
そう言って、入り口の扉を開けて大勢が出てきた。
「警部補、どこにいるんです?局長達は?」
「あれ、こんなところに子供がいますね。僕たち、ここは今日はお休みだから、入れないんだよ。もっと、違うところに行って遊びな」
「バカ、こちらが治安情報局の方達なんだ」
それを聞いた職員達は信じられない顔でマリ達をみつめた。
「おい、お前達、誰のおかげで、犯人を逮捕できたと思っているんだ、どいつも、こいつも、人を見た目で判断しやがって」
マリはまた、イブをいさめるように
「イブ、いちいち怒っていてもしょうがないわ。早く中に入って用件をすませてしまいましょう」
「あなた、お名前は?」
「あ、はい、シャルル警部補です」
マリはそこにいる職員達に
「シャルル警部補・皆さん、フランス治安情報局の局長マリ・トビシマです。階級で言うと警視庁トップの次の階級になります。治安情報局はまだ、開設したばかりで、局員の人数もそうですが、拘留施設などもなく、今回、警視庁へ犯人の身柄を渡しました。そして、さきほど、うちの局員が、新しい犯人を逮捕しましたので、尋問を我々でさせてもらいます。面白くないかもしれませんが、これは上官としての命令です。では、警部補、すぐに犯人のところに案内してください」
可愛い洋服を着た少女が上官であり、治安情報局の局長であることに、驚きを隠せない職員達は、シャルル警部補を先頭に目の前を通り過ぎていく3人に違和感を感じながらも、その堂々とした姿に見とれてしまった。




