第78話 迷い込んで進むお人好し
「帰りました!」
大きな声で情報棟の扉からマリ達が帰ってきた。今日は水曜日のため、午後からは治安情報局の局長としての仕事を行う日でもある。局長室に行くと、そこには最新の通信設備が揃えられており、
壁に付けられているモニターでは、各場所の状況がリアルタイムで分かるようになっていた。
また、イブやユウキの席も新しく、マリの右、左に設置され、机の中に埋め来られているkeyをタッチするだけで、空中に画面が浮かび上がってくるものが付いていた。
「うわあ、すごいことになってるね、さすが、軍から、最新型の設備を入れただけはあるね」
「これだけ、設備が整えば、仕事がはかどるね」
そういってユウキは、ぱちぱちとボタンを押して、国防省からのメールや、備品の購入の処理など黙々と仕事を始めた。そんなまじめなユウキをイブは見ていて
「ユウキ、ムー人はあまり人間の世界には干渉しないのが鉄則じゃないのか。最近、色々な事務処理をこなしているようだけど」
ユウキは顔色ひとつ変えずに
「人や、物に対しては、物理的な行動は、何もできないし、科学技術の供与などもできないけど、事務処理や国防省など人との打ち合わせなどは問題ないし、それをマリに報告して、決定するのはマリだから、頼まれた仕事で、できる範囲のものだけ、こなしているよ」
「ふ~、ユウキはまじめくんだね~、こんなにも親切なムー人は、めずらしいんじゃないの」
「そりゃあ、代わりに誰かやってくれれば助かるけど、特にこの事務処理が結構めんどくさいんだよ、これだけでも、誰か、代わりにやってほしいんだよね」
ユウキはイブをじ~っと見つめた。
「なんだ、お前、ジロジロ見るな。私はそういう秘書みたいな、チマチマした仕事が嫌いなの知っているだろ」
「イブもさあ、なんか、仕事してくれよ。そんな高級なデスクに座っているだけでなくてさ」
「私はいいの、私は、人をうまく使うことが特技なのよ。だから、部下が増えれば、増えるほど、その力を発揮できるのよ」
「部下って、言ったって、増員の予定もないしね」
そんな話の中、マリが思い出したように
「ねえ、そういえば、だいぶ前にエマ相談役が、息子がどうとか、言ってたよね」
イブやユウキも思い出したように
「言ってたね。そういえば、なんか、エマと同じで、すごいお人好しで、頭はいいけど、いつも手柄を横取りされて、今はだだの使い走りの研究員をやっているとかいう、え~と、セドリックだ」
「あれから、どうなったのかな?このデスクの新しいPCでも連絡取れるかな?エマさんからセドリックの連絡先は聞いたんだけど、ユウキは忙しいそうだから、イブこの機械使い方をおしえてよ」
「いいですよ。マリ、まずはこの起動ボタンを押して立ち上げて、ダニエルに局長のデスクはすぐに皆と通信できるように設定することや、さまざまなことにもすぐに対応できるように簡単なソフトを各種入れて、使いやすくなっているはずだから」
「あ、起動したよ」
「え~とね。この通信マークをタッチして、電話通信アドレスをタッチして、ほら、セドリックでてきた、これを押せばつながるわよ」
ポチっと押した途端、スピーカーになり、セドリックが今どこにいるか、画面に出てきた。
「すごいね。これ」
「ぷ~、ぷ~、はい、セドリック」
「ボンジョール、私は治安情報局のマリ・トビシマです」
「あ、局長ですか。このたびは、ウチの母が大変、お世話になりありがとうございます」
「いえいえ、あの~エマから、だいぶ前に息子がすぐに情報局で勤めるようになると言ってましたが、もうあれから、2週間経ちましたが、こちらにはいつから来れるんですか?」
「すみませ~ん。辞表は出したんですけど、上司や、関係各所の担当から今、やめられたら困ると言って、次から次へといろんな仕事を任されてしまい、現状では、いつ行けるとはいえないんですけど」
「なるほど、大変失礼な言い方をさせていただきますが、セドリックは雑用仕事で一生がおわるのと、未知の文明や想像を絶する科学技術にふれることができ、そして、世界中の人類を滅亡から救いだす、我々の仕事とどちらが良いですか?」
セドリックは困った様子で、
「え~と、それは~」
「はっきり、言ってください」
セドリックはびっくりしたが、大声で
「治安情報局で働きたいです!」
そんなやり取りを隣で聞いていたイブがイライラして
「マリ!この優柔不断男に私もひとこと言わせてください!」
「はい、どうぞ」
「おい、なんで、すぐにやめてこないんだ。お前はみんなにいいように使われているのがわからないなのか!お前は優秀だから、難しいところを全部、押し付けて仕事させ、上司は、その手柄を全部いただいているんだぞ。今のままでは、お前は一生、雑用係だ」
しばらく、イブは考えた。そして、手をパチンとたたいて、
「よ~し、どうせ辞めるんだ。それなら、でっかい花火を打ち上げて、堂々とそこをやめるのがいいな」
イブは急にニヤニヤしはじめた。それを見たユウキやマリは心配になって
「イブ、お前、また、変なことをしようとしているだろ」
「うるさい、お前はそこで、楽し~い、秘書仕事をしてればいいんだよ」
「おい、セドリック」
「はい」
「お前は几帳面な人間か」
「はい、この仕事は几帳面でなければ、できませんから」
「そうか、お前が今まで、何十年か、わからないが、自分で作成した、論文や研究開発、それと、今の会社での上司から頼まれた仕事内容まで、誰にいつ、渡したか、または盗まれたか
記録は残っているか」
「はい、全部、データにして公的な機関にも残しています。私が原案を作っていますから、すべての保存年月日がどれも私のが古くなっていますから、すぐに私が作成したとわかるようになっています。」
「よ~し、いいぞ、今から私のPCにそのデータを送れ、そして、お前を悪用したやつが一番困る相手にすべて、その内容を私がうまく送り付けてやる」
「え~そんなことをしたら、私はここをすぐにクビになってしまいますよ」
イブは何を言ってるんだこいつはと思い
「アホか、お前はそこをすぐに辞めたいんだから、ちょうどいいじゃないか」
セドリックはしばらく考えて、あ、そうかと頷いた。
「セドリック、今から、その任されたとかいう仕事全部ストップだ。特に今の会社の上司やお前をさんざん利用したやつらがを徹底的に打ちのめしてやる」
「でも、私がこのデータを送っても、どうやって、適格にそんなことができるんですか?」
「そのデータはすべて、どこの誰に渡したか、盗まれたか、記録されていると言ったな」
「はい」
「じゃあ~大丈夫だ、私はお前より、はるかに頭がよく、この世界のすべての情報をこのPCから、瞬時に組み上げることができるんだ。任せておけ、それにお前は、もうこの治安情報局の一員だからな、なにがあっても、われわれが必ず守る。安心しろ」
「母さんから、あなた達のことは聞いてます。よろしくお願いします」
「おっと、そうだ、お前の能力を世間に認めさせてやるんだから、私に、ちょっとおもしろいものを見せてくれ」
イブはまた、ニヤ~と笑った。今度マリが、心配になって
「イブ、これ以上、セドリックに変なことをさせないでよ」
イブはふくれた顔で
「マリ、これは、ギブ・アンド・テイクですよ。なんでも、ただで、やってもらえるなんて、
思ったら、ろくな人間になりませんから」
マリ達は、5分くらい前から、カミーユ大尉のチーム全員で局長室の前にいるのが気にはなっていたが、セドリックの件でバタバタしていたため、声はかけずにいた。そして、イブが
局長室の扉を勢いよく開けて、
「バーン」
「お前達、なに、こそこそしているんだ、ちょっと、中に入れ、これから面白い物をみせてやる」
驚いた、チームはイブの言われた通り局長室に入った。
「待たせたな、セドリック、おい、お前のスマホは映像モードにできないのか?」
「できますけど」
「じゃあ、ちょっと切り替えろ」
「はい」
セドリックがいる、会社内の様子が写し出された。
「お~いいな、良く見えるぞ」
「あの~何をさせるんでしょうか」
「セドリック、ここにいる軍人5人が見えるか、この軍人達はこの局でも命知らずの屈強な男達だ、そして頭もよく、精神的にも強い者達だ。ここで働くものは、こうでなくてはならない。
そこでだ。今から、お前がよく仕事をたのまれる上司のところに行き、思い切り、こう言ってやれ」
『この盗人野郎、おれが作った資料や論文をそのまま、使いやがって、おれがいなけりゃ、なにもできないスカンク野郎が、お前の悪行を全部ぶちまけてやるからな』
こんな感じだ」
「そんなこと言えませんよ。あの人がいるフロアーは100人ぐらいの人がいるんですよ」
「ハハハ、そりゃあ、もっと面白い、お前が雑用係から抜け出したいなら、絶対やれ!また、家に帰って、安月給のろくでなしとクロエに毎日言われたいのかい、さっきも言ったが、何があっても、我々がついている。一発、ぶちかましてやれ、大声でな」
セドリックはしばらく考えたが、今までの人生を振り返り、こんな自分にここまで、してくれる人はいない、そして、やってやると震えながら
「イブさん、ありがとうございます。やって・・やります」
イブは笑いながら
「よ~し、行ってこい、スマホは切るなよ。大事なシーンだ、みんなで応援してるからな」
カミーユ大尉達は、この人に捕まれば、このように何でもやらされるんではないかと、背筋が凍るようだった。
「室内に入りました。やっぱり、大勢います」
セドリックは緊張している割には、皆に状況がわかるように、スマホで周囲の様子を写した。
「いました。あのろくでなしが、私のおかげで、あんなすごい地位まで昇りつめやがって」
「いいぞ、セドリック、今の言葉はナイスだぞ、その勢いでいっきに向かって行け」
「了解!」
そんな時、セドリックに気が付いた、同僚が、
「何、やってるんだお前、急ぎの仕事大丈夫なのか」
セドリックはその同僚を睨みつけて、
「アホか、おれがいなけりゃあ、なにもできないお前にそんなこと言われる筋合いはない、この会社がこんなに大きくなったのだって、全部、俺の研究開発のおかげだろうが、このくそ野郎」
セドリックはだんだん、気分が盛り上がってきた。そして、上司ガストンの目の前に来た。
マリやユウキもセドリックに変なことをさせるなと言いながら、その様子に釘付けになっていた。
「おい、セドリック、頼んでいた、仕事は終わったか?」
相変わらず、間抜けな顔をした能無し上司の前にきて、セドリックは大きく深呼吸をして
ぶちかました。それも、信じられないような大声で
『この盗人野郎!おれが作った研究資料や論文をそのまま、使いやがって、おれがいなけりゃ、なにもできないこのスカンク野郎!これからお前の悪行を全部世間にぶちまけてやる!』
騒がしかった、その仕事場のフロアーがその声で急に静かになった。
ガストンは驚いた顔で
「おい、急にどうしたんだ、セドリック、今まで、仲良くやってきただろ」
セドリックは今まで、言いたくても言えなかったことが言えて、何かが吹っ切れたようだった。
「あんたは知らないだろうが、今までの研究開発や論文、資料などすべて、公的な保存システムに事前に登録しておいたんだ。さっき、それを世界に公表する手続きをした。登録保存した日付で誰が最初に作成したものか、はっきりわかるからな。そして、お前は今週中、いや、明日には、最低の盗人野郎でこの会社を解雇され、警察に逮捕されるだろう」
セドリックは乗りに乗ってきて、このフロアーにいる社員に向かって、また大声で
「お前達も聞いていたか!この会社はもうだめだ。盗人集団だからな。それとここにいるすべての人間も少なからず、罪に問われるだろう」
イブは局長室で大きな拍手をして、喜んだ。自分が求めている以上の行動をしたからだ。
「みんな、見たか。セドリックのすっきりした顔、上司や会社の人間の落ち込んだ顔、
たまらんな。ハハハ・・・・」
たしかにすごい、シーンだが、ここまでやらせるかと、みんなはイブを見つめてあきれてしまった。
「セドリック、今日は治安情報局で、お前を待っているぞ」
セドリックは気持ちが高揚しすぎて、目から涙が出ていたがスマホに写っているイブに向かって、大きく頷いた。




