第76話 住まいと家族
皆がミーティングルームを出た時にエマが
「大将、できれば局長室で相談したいことがあるんですけど」
「あ、そうでしたね。構いませんよ、え~と、ユウキやイブも聞いても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
ベータは夜ご飯の支度で離れ、マリ、ユウキ、イブ、アンドレ秘書が局長室に入り、エマの話を聞くことになった。室内の応接ソファーに皆で腰を下ろした。
「大将、お時間を取らせてすみません。家族のことなんですが」
「はい、どうしました?」
「以前、大将の命令で私は、その功から、高級老人住宅に住めと指示を受けましたが、
やはり、この間の件で、勘違いとはいえ、私の家族は私に危険があると知った時に必死に守ってくれました。普段はあまり、相手にもしてくれないのに、ですから、考えを改め、家族全員で引っ越してそこに住みたいと思います。よろしいでしょうか?」
エマは真剣なまなざしでマリを見た。そしてマリは
「ハハハ、エマさん、家族のことはエマさんが決めることですよ。私が家族の生活まで口出しなんて、そんな失礼なことできませんよ。エマさんの好きにしてください。私が言いたかったのは、おばあちゃん達とこの国を救った英雄にきちんとした生活をしてもらいたかっただけですから、もし、おばあちゃんがここにいても絶対同じことをしたと思います」
「大将、ありがとうございます」
「アンドレさん、住まいやエマさんの生活のサポート、よろしくお願いします。そのためにかかる費用はすべて、こちらのユウキに回してください。すぐに支払いますので」
「わかりました。任せてください」
「大将、あとひとつだけ、お願いがあるのですが、うちの一人息子のセドリックのことなんですが、ここまでしていただいて、大変、押し付けがましくてすいませんが、あの子をここで働かせてもらえないでしょうか?」
「息子さんですか?」
「はい、あの子は昔からものすごく頭がよくて大学も首席で卒業してます。ですが、お恥ずかしい話ですが、私ゆずりのお人好しで、自分で研究開発したものや、論文など、すぐに人を信用するもんですから、次から次へと盗まれ、手柄を横取りされ、本来なら、とても偉い役職についている、いいえ、ノーベル賞だって、もらっていたかもしれないのに、今では、ただの研究員でくすぶっているんです。それで、給料も安いもんですから、嫁にいつも、嫌みを言われて、でもね、あの子は本当に小さい時から優しい子で今でも私のことや家族のことをとても大事にしてくる子なんです」
「ハハハ、エマさん、何をおっしゃてるのですか?あなたはここの唯一の役員で、この情報局の実動部隊のトップなんですよ。人事権はもちろん、カミーユ大尉達の仕事だって、あなたの意見ひとつで大きく変わるんですよ。私だって、エマさんの経験や能力にはとてもかないませんから、ですから、エマさんが決めてください。私には報告するだけで結構ですから、あ、でもマツさんから、言われてますけど、政府や他の人との交渉は我々がしますからね。エマさんもすごいお人好しみたいですから」
「フフフ・・・ありがとうございます」
エマは恥ずかしそうに笑いながらマリに感謝した。
「は~、無事に今日も終わった~」
「マリ!これから、学校の宿題、今日はたっぷりでたからね。休んでいる暇ないよ」
「え~、そうだっけ」
そこで、イブが
「しかたない、マリ、私が面倒を見ますよ。マリは身体能力はずば抜けているけど、頭の能力はいまいちだからね」
「も~イブ、エマさんやアンドレさんがいるところで私をいじめないで、だいたい、あなた達に頭の能力で勝てる人なんてこの地球にいないじゃない」
皆は局長室で大笑いをした。
そんな中、エマはマリに出会えたことをかつての救世主に出会えた時と同じように神に感謝した。
「大将、このことを早く家族に話したいので、今日はこれで失礼します」
「相談役、お疲れさまでした。また、明日から忙しくなります。よろしくお願いします」
「はい、お任せを」
そう言って、エマとアンドレは情報局を後にした。
セーヴルの街の自宅に帰った時は、もう、17時を超えていた。
「アンドレ、今日もありがとう。それと、今週の土曜日なんだが、この前、探してくれた物件をうちの家族みんなで見に行きたいんだ。明日、そこの鍵や資料を用意してくれるかい?」
「承知しました。それでは、明日8時30分にお迎えに来ますので、あっと、それと、こちらのスマホをお渡ししておきます。ここには、私はもちろん、さきほどのミーティングに出席された方の連絡先を入れてあります。何かあれば、こちらで連絡してください」
「わかったよ。あんまり、この電話使ったことないから、息子にでもあとで使い方を聞いてみるよ」
そして、アンドレは帰って行った。今日は息子達家族と18時から大事な話があると言っておいたから、それまで、しばらく、のんびりするかとお湯をわかして、お茶を飲みながら、
みんなの帰るのを待った。
エマの家族は収入が少ないため、息子夫婦はもちろん、大学生の息子、そして、同じく大学生の双子の妹は全員仕事やアルバイトをして、なんとか、生活をしている状態だった。もちろん
家を買ったローンや車のローン、学費ローンなど、はっきり言って、この家は火の車状態だった。たしかに息子の妻がいつも怒るのも大学生の子供達もエマに嫌みをいうのも無理もなかった。
「帰ったよ~」
大学生の息子とその妹達が自転車で帰ってきた。それを追いかけるように息子夫婦も車で帰ってきた。
「帰りました、母さん、ごめん少し遅れちゃったね、クロエの仕事が少し長引いちゃってね」
「みんな、お帰り、まあ、みなリビングに座って、わたしの話を聞いてくれ」
この家族は今まで、エマの話なんか、ほとんど聞かなかったのに、あの勲章騒ぎから、エマの言うことはなんでも聞くようになっていた。
「お母さん、急にどうしたんですか。たしか、今週でこの家を出るとか言ってましたけど、お別れのあいさつですか?」
「違うよ。いいかい、これから話すことは、あんた達全員の人生をひっくり返すような話だ。前みたいにバカにした態度をとるんじゃないよ」
「わかってるよ。ばあちゃん」
「全く、コンスタンは調子がいいね」
「母さん、どんな話なの?僕は明日は朝早く仕事に行かなくちゃいけないから、手短にたのむよ」
エマはまた、仕事で調子のいい人間にいいように使われている息子が本当に情けないと思った。
「セドリック、あんた、もうそんなこと気にしなくていいんだよ。明日、その会社に辞表を出してきな」
「辞表?そんなことしたら、家族みんな生活できなくなっちゃうよ」
エマはこの子は頭はいいのに、なんでこんな気持ちの小さな人間になっちまったんだろうと
悲しくなった。
「そんな心配ないよ。あんたはこれから、私の部下になって働いてもらうよ」
「部下?何言ってるんだよ。今の会社で担当している仕事がいっぱいあるんだよ。みんなに迷惑になっちゃうよ」
「アホか!そんな研究のお手伝いはね、誰でもできるんだよ、私はあんたのことが心配で前から、どんな仕事をしているか、全部知っているんだよ。これでも、元諜報部の人間だからね」
セドリックはびっくりした様子でエマを見た。
「それと、クロエさん、コンスタンそれとセリーヌとコリーヌ、あんた達も仕事を辞めてくれるかい、まず、クロエさんは家事とそれと、もう少し、きれいな服やアクセサリーをして、
上流階級での教養を学校に入って学んでもらうよ。孫たちは、アルバイトする時間があったら、自分の目標があるだろ、コンスタンは芸術家、セリーヌは弁護士、コリーヌは機械工学のエンジニア、それに向かって、無駄な時間を使わずにまっしぐらに突き進みな、生活費はもう気にすることないから、でも、たまに遊ぶのはかまわないが、あんまり、おいたが過ぎると、私は容赦しないよ」
「あの~お母さん、これはどうなっているんですか?」
「ばあちゃん、本当にアルバイトやめていいの!はあ~やっぱり、ばあちゃんのこと昔から大好きだったんだよね」
妹達も
「私もおばあちゃん、大好き!」
「あんた達、調子が良すぎるよ、全く、手のひら返したように、でもね、これから、クロエさんは仕事しない分、あんた達の生活態度をしっかり見るようになるから、大変だよ」
「みんな、ちょっと静かにしてくれ、母さん、話がよく見えないんだけど、順を追って説明してくれるかい」
「あ~そうだね、話が飛んじまったね。まず、私だけでなく、家族全員でこの家を引き払って、パリ16区にある高級住宅街に引っ越すよ。物件はもう押さえてある。できれば、今度の土曜日にみんなで見に行って、よければそこに引っ越そう、孫たちの大学も近くなるし、セドリックがこれから、働くところも近くなるしな。それとクロエさん、これから、セドリックの仕事は政府高官や上流階級の方と会うことが多くなる、それと16区に住む、ご近所もみな、それなりの上流階級の方が多いし、そのため上流階級に対応できる教養を身に着けてほしい。息子は昔、私が元気な時にそういうことは全部たたきこんでいるから、必要ないからね」
「え~、ばあちゃん、僕たち、そんなすごいところに住めるの、まじかよ~何この逆転人生!
チョ~楽しい」
「私達の部屋もあるのかな?今はせまい同じの部屋だから、本当息苦しいもんね」
「お前達、母さんの話をさえぎるな。最後まで聞こう」
「まず、セドリック、今の仕事をやめて、国の組織で働いてもらうよ。給料は今の倍以上はでるからね。クロエさん、あとで、この家や車、学費ローンなど、その他、借金なんかあったら、今週中に私に出しな。全部清算してくるから、それと、あの10年落ちの中古車も処分してくれるかい、これから住むところには合わないからね。あんたは今まで息子の安月給に文句は言ってきたけど、家族に対しては精一杯、裏切らないでがんばってくれた。あんたが買いたい車、新車でもなんでもいいから選んできな、息子になんか聞くことないよ。これぐらいはしないと、今までの苦労も報われないだろうからね。それと孫たちはクロエさんに大まかな生活費を渡すから、毎月、計画的に必要なお小遣いや、勉強に必要な物を話して、費用を出してもらいな」
みんな、信じられないといった顔でエマを見た。
「まあ、だいたい、こんな感じだ。これから、生活スタイルが大きく変わるが、今まで通り、家族みんなで暮らしていこう」
話が終わり、エマはホッとしたが、皆がじ~とエマのことを見ているのに気づき
「なんだい、私の顔になんか付いているのかい。あんまり見つめられると気味がわるいね」
エマは苦しみが取れたような、皆の顔が見れて、とてもうれしかった。




