第70話 レジオン・ドヌール勲章
マツの声で住民達は落ち着きを取り戻し、大統領が来るための準備を手伝い始めた、アベル大臣の手配した政府の式典などを準備する者達にまじって、エマのために気持ちのいいくらい、皆テキパキと動き出した。
「エマさ~ん、この正装用の軍服に着替えてください。私が手伝いますから、どこで着替えますか?」
「そうだね。奥の私の部屋でいいかね」
「はい、急ぎましょう」
「お~い、セドリック、お前の車じゃまだ~。うちの駐車場に移動してくれ。コンスタンも妹達の自転車もウチに移動してくれ」
「お前、なにぼ~っとしてるんだ。エマさんの晴れ舞台だ。みんなで、街から、みんな呼んで来い、急いでな」
マリ達ははさっきまで、あんなに住民がにらみ合っていたのに、マツさんの掛け声でこんなにみんな協力してくれて、すごいと思った。
「マリさん、準備は皆に任せて、昨日の件、返事はどうですか。ここは、騒がしいですから、
あちらの静かなところで、話しましょう」
そう言って、アベル大臣がマリ一人を静かなところへ連れて行こうとした、その時
「おい、待ちな!ベル坊」
マツが大きい声でアベル大臣を呼んだ、アベルはビクっとしてマツを見た。
「マツさん、どうしました?」
「どうしましただって?お前はそうやって、小刻みに歩く時は、いつも悪だくみをしている時だからね。あんたは何十年たっても、そのくせ、治らないね」
「マリさんに悪だくみなんて、やめてくださいよ。これから、二人で大事な話があるんですから」
「そうかい、じゃあ、私も一緒に聞こうじゃないか」
「え、一緒に!」
「あんたはね、バレバレなんだよ。おおかた大統領にでも言われて、政府にマリさん達を取り込もうとする算段なんだろう」
アベルは完全にマツに心を見透かされて、もうだめかと、がっくりきてしまった。
「アベルさん、今、マツさんが言ったことと同じことを私たちの仲間になった、エマ相談役から言われています。ですので、お返事ですが、政府の組織には入ろうと思っています。。しかし、私達で条件を付けさせていただきます。今週中にエマ相談役と打ち合わせして、条件書をまとめますので、その内容でよければ、政府の組織に入らせてもらいます。私達はあくまでも世界の人類を守ることが使命ですから」
それを聞いてマツが
「ハハハ、そうですか、エマが仲間になったんですか。それなら、たぶん、利用できることはとことん利用する内容を突き付けるんだろうね。でも、マリさん、これだけは言っておきます。
エマは、あらゆる仕事をこなす能力は飛び抜けていますが、対面での交渉は不向きですから、エマはとんでもない、お人好しなので、気を付けてください」
「マツさん、ご指摘、ありがとうございます。肝に銘じておきます」
マリはアベルを見て、ニコっと笑った。アベルは引きつった顔でマリを見て笑った。
「あ~、いたいた、マリ~、外は200人ぐらいの人だかりで、もうめちゃくちゃだよ」
ユウキも
「マリ、あまり、あちこちに行かないでよ」
「はいはい、みんなごめんなさい。でも、今日の主役はエマさんよ。みんなで祝福しましょう」
祥子はさっきから、ず~とマリのことを見ていた、出会った時から、妙に気になり、今日、来たばかりでフランスの生活のほんのひと時だけど、
いつも、仲間に信頼され、決しておごらず、素直で、困ったり、苦しんでいる人を見過ごさない姿勢、それが、たくさんの人達を動かしていく、祥子はより、一層、ここフランスで生活がしたいと思った。
「来たぞ~大統領だ~」
そんな大きな声が聞こえた時に、警察車両を先頭に大統領専用車シトロエンが続いてきた。
住民は準備が終わったあと、警備や警察官の指示に従い、通りに沿ってきれいに並び、
エマ宅の前はカーペットや花などが飾られ、とても、お忍びで来るようなところではない環境が整っていた。
「ガチャ」
フレデリック大統領が車から降りた。そして、アベル大臣の案内のもと、エマ宅前に用意された会場に着いた。
「アベル、お忍びと言ったのに、これはどうなっているんだ」
「すみません。どこかで情報が漏れたようで」
「そうか、やはり、お忍びでこそこそ、勲章を授与するより、このように堂々と皆の前で渡す方がいいな」
大統領は笑顔になり、エマ宅から、正装用の軍服を着た、エマが出てきた。その横にはマリ・トビシマが勲章授与するところへエスコートした。そこで、アベルが大きい声で
「これより、勲章授与式を行う。わが同志エマ・バテンタールこちらへ」
マリに送り出されて、エマは前に出た。正装用の軍服に身を包んだエマは誇り高い軍人のような出で立ちで大統領の前に出た。大統領はニコっと笑い、
「フランス軍情報部エマ・バテンタール、情報部同志代表として、あなた方に勲章を授与する。
大戦中と戦後のフランスの復興に努め、その語学力、知識、適応能力の高さから、この国に尽くしたことを称え、ここにレジオン・ドヌール勲章を与える」
そう言った直後、住民達が
「お~、トレビヤン~」
とどよめきが起きた。
マリは大統領がエマに最高の勲章を授与してくれたことに、うれしくて、涙が出た。
松田マツはエマ達の活躍がなければ、このフランスもどうなっていたかわからなかったんだ。当然の授与だと思った。
イブやユウキ、葉子もマリの働きにより、エマ達のためにこんな式典が行われたことに、すばらしい気持ちでいっぱいになった。
大統領はエマに向かって
「エマさん、勲章の授与が大変遅くなって、申し訳ありませんでした。私からはこれぐらいのことしかできませんが、これからの人生も力強く歩んで言ってください」
「大統領、今日は本当にありがとうございます。これからは、新情報局大将マリ・トビシマの元で相談役として、命ある限り、頑張っていきます。大将!こっちに来てください」
エマは近くにいるマリを呼んだ。
「大統領、こちらが我が大将、マリ・トビシマです」
「アンシャンテ 大統領、マリ・トビシマです」
フレデリック大統領はこんなかわいらしい少女がマリなのかとびっくりした様子で
「フレデリックです。おうわさはかねがね、お聞きしております。これからもこの世界の平和のため、ご協力をよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
大統領もマリも笑顔で固い握手をした。
その様子を遠くから見ていた国土監視局のポーラやクロードも笑顔でながめていた。
大統領はエマと手をつなぎ、高々とその手を挙げた。エマは幸せいっぱいの顔になった。
エマの息子夫婦や、孫たちも、ウソだろ・信じられないといった気持ちで拍手をしながら、見つめていた




