69話 隠れた英雄
「エマさん、なんか外でたくさんの人がいますけど、どうしたんですか」
エマは笑いながら
「大将から相談役に任命され、今日、大将とここで会う約束があると言ったら、息子夫婦が
詐欺に合ったとか騒いで、こんなことになっちまって、全く私の話を信じないんだよ、あの子たちは」
隣にいた孫のコンスタンは笑いながら、
「ばあちゃん、いいかげん、目を覚ましてくれよ。そんな秘密情報部とかフランスを救ったとか、こんな普通の生活をして、貧乏なうちの人間が言ったって、だれも信用しないよ」
「なるほど、こんな感じで信じてもらえないんですね。でも、あと少しすれば、みなさん信じると思いますよ」
コンスタンはこの少女は何を言っているんだと首をかしげて、あきれた顔をした。
「大将、これは同志たちの連絡先です。私達は大将の命令なら従いますから、もし、まだ意識がはっきりしている者がいれば、大将のこと、そして、我々の想いも引き継いでくれること
話してあげてください」
「わかりました。任せてください。エマさん、話は変わりますけど、相談役として意見をもらいたいんですがよろしいですか」
「大将、何でも言ってください」
「フランス空軍のドニーズ将軍やフレデリック大統領から、あの情報部が50年ぶりに復活したことで、政府の組織に入れて、国内などの平和協力をしてほしいと依頼がありました。
私達は自由に動けなくなるので、この国だけの組織になることを拒否しようと思っていますが、どうでしょうか?」
「う~ん、それは正解であって正解ではないですね。まず、組織というのは法律などの決め事によって運営されます。そのため、我々の都合の良い条件を突き付けて、自分たちのいいように利用するやり方が正解です。
拒否してしまえば、国内や国外における活動などの協力はありませんし、すごく不便になってしまいます。逆に我々の都合の良い条件で組織に入り、利用できるものは何でも利用する。
これが一番でしょうか」
エマはスラスラとマリが思いもつかないことを話しだし、この人はやっぱり、すごい人なんだな~と思った。祥子も
「マリ、このエマさんって、すごい人だね。まるで、ウチのおばあさまと話をしているみたい。
やっぱり、妹分って言われるわけだね」
「なんだい、あんた、わたしは兄妹はいないよ」
「あいさつが遅れてすみません。エマさん」
祥子は急に立ち上がって
「私は、松田マツの孫の松田祥子と言います。おばあさまの妹分だからおばさまと呼んでもよろしいでしょうか?」
エマはびっくりした顔で
「姉さんの孫だって!」
エマはうれしそうな顔で祥子を見た。
「はい、今日はおばあさまも来てるんですよ」
「なんだって!」
「あ、いけない、早く話さないと、エマさん今日はこれで終わりじゃないんです。
これから、フランス政府の要人があなたを同志代表として勲章を授与にきます。すみません。向こうの都合で急遽、今日になってしまったんです」
「要人?」
「はい、え~と19時にアベル国防大臣がきます。そこで事前準備をして
20時にフランス国大統領フレデリックさんが来られます」
「大将、本当ですか?」
「はい、すみません。急にこんなことになって」
「ハハハ・・・、さすが、姐さんがすべてを託した人だ。大将、わたしはあんたの部下なんだ
謝ることなんてないですよ。喜んでお受けします」
隣でとんでもないこの話を聞いていた孫のコンスタンは
「あんまりばあちゃんにおかしな話を吹き込むのはやめてくれるかい」
「おかしな話?」
「そうさ、今だって父さんたちは外で詐欺グループを待ち受けているし、ばあちゃんがおかしな考えを持たないように守ってあげなきゃいけないんだから」
「それでは、あと少しすれば、はっきりしますよ。エマさんは何ひとつホラなんて吹かないことが」
コンスタンは両手を軽く上げて、こりゃあだめだとマリ達をみつめて、あきれた顔をした。
そんな話をしている中、19時になり、警察車両を先頭に黒塗りの高級車がエマ宅の道路の反対側に止まった。
「マリ!大臣が来たみたいだよ」
「行けない、みんなにすぐ戻るって言って、アベルさん来ちゃったよ。エマさん行きましょう」
エマが立ち上がって、マリ達と外に出ようとした時にコンスタンは
「ばあちゃんは外には出さないよ。父さ~ん!」
コンスタンは外にいる父を大声で呼んだ。その声を聞きつけた父セドリックは急いで家の中に入ってきた。
「どうした。コンスタン!」
「この子達がばあちゃんを外に出そうとしてるよ」
「お前なんで、知らない子を中に入れたんだ」
「母さんから離れて早くここから出ろ!」
セドリックは大きい声でマリ達に怒鳴った。その様子を見ていたエマは
「うるさいよ、お前達、大将にたいして、失礼な態度を取るんじゃないよ。私はこの方の部下なんだ。いいかげんにおし、昔から私の話を信じないバカな子たち、大将が50年ぶりに私を部下にしてくれた。いいから表に出な!」
そんな指示を無視してセドリックはマリの腕を引っ張って外に追い出そうとした。
マリは190cmはあるセドリックの腕を逆につかみ返して、ものすごい力で逆に外に出した。
「お~い、みんな、母さんを守ってくれ!」
妻のクロエを始め、外にいる住民がみんなセドリックを見た。
「セドリック、何をそんな少女と遊んでいるんだ。早く振りほどいて、帰ってもらえばいいだろ」
「それがこの子の力がすごくて、身動きが取れないんだ」
住民の中から警備会社に勤めている、大柄な男が出てきた。
「みんな、俺に任せとけ、おい、お嬢ちゃんたち、悪ふざけはやめろ」
「マリ、そのまま、押さえていて、こんな奴、あんたが出てくるほどじゃないわよ」
「おじさん、エマさんの晴れ舞台の日にこんな争いごとやめてください。みなさんも
この家の人たちは勘違いしているんですよ~。エマさんの話を何も信じず、毎日バカにして、とんでもない家族なんですよ~。今日はこれから、永い間、人知れず、謙虚に生きてきたフランスの英雄、エマさんの勲章授与がこれからあるんです~。お願いですから、もうお帰りくださ~い」
「おいおい、なにをデマを大声で言っているんだ。いい加減にしろ」
そう言って、祥子につかみかかってきた男は祥子に1瞬ですっ飛ばされてしまった。
「こんなよわ~い、おじさんが何人きても私には勝てませんよ~。我々は政府の情報部の人間です。フランスの英雄、エマさんはその高官に任命されていま~す。皆さん、無駄な争いはやめましょう」
一触即発といった状況の中、道路の向こう側で止まっていた車から警護官・警察官、そしてアベル大臣が歩いてきた。
「マリさん、相変わらず、お忙しそうで・・・」
アベルはニヤニヤしてマリ達のそばに歩み寄ってきた。そして、大きい声で
「わたしは、フランス国、国防大臣アベル・オルクレール、わが同志エマ・バダンテールに会いに来た。住民の皆さん、もう危険はありません」
住民達はたくさんの警察や警護官を見て、驚いた様子で立ち尽くしていた。そして、テレビで見たことがある大臣だとわかると、
「大臣!この少女が言っていたことは本当なんですか?」
住民の中から声がした。
「そうです。何ひとつ、間違いはありません。ですから、争いごとはやめてください」
「大臣!勲章授与をこれからするんですか」
「そうです。20時から始まります。これから、急いで準備があるので、お帰りください」
住民たちはこれは本物だとわかると急にセドリックやクロエのことをにらんで怒り出した。
「おい、お前達はうそつき家族か、こんなうそで、私達をここに呼んだのか」
「そうよ。ふざけるんじゃないわよ。みんな忙しいところ、集まってあげたのに、バカみたいじゃない」
そんな不満を住民が言い始めた時、さらに大きな声で老女が叫んだ!
「皆、きけ~、エマは優しく、そしてその家族も、とても優しい家族だ。エマを家族で守ろうとした優しい気持ちは本物だ。だから、誇り高いフランス人が汚い言葉を出さないでくれ。もし、文句がある人がいれば、これから来られるフレデリック大統領に言え。フランスにつくしたエマにこんな待遇を強いてきたんだ。さあ、皆、エマのことを思うんなら、みんなで盛り上げて最高の授与式にしようじゃないか!」
その透き通るよう声はここに集まった住民の胸につきささった。そして、大統領がこの街に来ると聞いた途端、エマの家族の悪口なんて皆どうでもよくなっていた。それをそばで聞いていたアベルは
「全く、マツさんはお忍びって、言ってるのに、大声で言うなんて、いくら住民の気持ちをいさめるためと言っても、フフフ、相変わらず、昔と変わらないな・・・」
エマは大きな声を出して、昔と変わらない、適応能力の高さを目の前で見て、その姿に涙が止まらなかった。
「姉さん!」
マツは泣いているエマに近づき、
「あんたは、こんな年になっても、相変わらず泣き虫は変わらないんだね。全く連絡もしないで」
エマはマツを見て
「姉さんだって、泣いてるじゃない」
二人は力強く、抱き合った。本当の姉妹のように
エマの息子達は、この状況に驚きと、過去、自分たちに真剣に話してくれたことがすべて真実だったことに気が付き、自分達がどれだけエマのことをバカにして傷つけてしまったんだろうと反省した。孫のコンスタンもマリを見て、申し訳ない顔をした。




