55話 少女の正体
「さて、あとは、主役の登場を待つばかりね」
軍の取り調べでの法律担当をしている審問官がそうつぶやいた。
基地の外はより一層、雨が降りしきり、ものすごい音を立てていた。
「カミーユ大尉、これから来る、少女は何者なんだ?少しは現場で話したんだろう」
レモンド中佐が謎だらけの少女のことが気になってしょうがなかった。
「はい、話しました。私もこんな若い女性にこんな力があるとは思わなかったんですが、アンナが倒され、動揺してしまった私は、うかつにも無防備の、その女性に銃口を向けてしまいました。その時でした。急に日本警察の警護官と名乗る者が現れ、その女性の盾になるように急に出てきまして、その後すぐに国土監視局の者が同じく2名、その女性を守ろうとしたんです」
「すごいな、それは、まるでその少女は何か重要な人物なのか?」
近くにいた、ドニーズ将軍も話を聞きたいようで近づいてきた。カミーユ大尉は少し興奮気味で
「そうしたら、日本警察の女性がこう言ったんです。『マリ・トビシマはこちらもフランス大統領からの支持をいただき、行動しています。マリさんに銃を向けるということはフランス大統領に銃を向けるのと同じことですよ!』って言ったんですよ、後から来た国土監視局の者も同じようなことを言ってました」
カミーユ大尉は少し思い出したかのように笑って話したが、ドニーズ将軍とレモンド中佐の顔がだんだん青くなってきた。
「あれ、将軍、中佐!どうされました?具合でも悪いんですか?」
カミーユ大尉は軍での行動は超一流だが一般的な会話ではだいぶ鈍いところがある。今回もそれが原因で国防大臣を怒らせたのだから、
「将軍、これはもしかすると、大変なことを今、我々はしようとしているんじゃないんですかね」
レモンド中佐は真っ青な顔で将軍に話かけた。
「そうだな。これは確かにやばいぞ、ねずみ取りがねずみになってしまうなこりゃあ」
カミーユ大尉は二人が何を言っているかわからなかった。
レモンド中佐は休憩中の審問官4人のところに走っていって、
「あなた達は大変なことをしていますよ。とんでもない、犯罪行為を」
「何を言っているんだ。これから来る少女や、あの金髪女性をここに呼びつけたぐらいで
中佐は何を言っているんだ?」
「あの~、つかぬ事をお聞きしますが、あの少女、マリ・トビシマの素性を当然、事前に調べていますよね。日本国の護衛官やフランス政府からも護衛官が付いており、フランス大統領が1国の大臣以上の待遇でこの国にお招きしている方ですよ。大統領はもちろん、外交ルートでの承認もきちんと取っているんですよね。あなた方はその席で座って偉そうにしていますが、まさか、一軍人がそのような方をこんな基地まで呼びつけるなんて、大丈夫なんですか?」
その話を聞いた審問官達は急におどおどしてきた。その様子を見て、レモンド中佐は
まくし立てるように
「フランス軍中佐として、上官である、ドニーズ将軍にお願いして、この件は、ここにいる審問官4名による職務逸脱行為として、国防大臣や大統領に報告する義務を行使させていただきます」
レモンド中佐はこの件で将軍の処分をうやむやにできる絶好の機会として、勢いよく大声で話しをして、将軍の方を振り向いて、軽く片目をつぶって、笑みを浮かべた。ドニーズ将軍も急に元気を取り戻し、
「よく言った、その通りだ中佐、すぐに国防大臣に報告をいれる」
先ほどまで、ドニーズ将軍以下レモンド中佐の部隊は犯罪を問われる立場でちじこまっていたが、今度は逆の立場になり、もう気分は絶好調、すぐさま、アベル国防大臣に直通の電話をいれた、
「ぷるるる・・なんだ、ドニーズ将軍、なんかあったのか?」
「はい、大臣、お忙しいところ恐縮です。マリ・トビシマについての報告をさせていただきます」
「なに~マリさんがどうした!」
「大臣、ここには軍法会議による審問官や私の部下たちもいますが、スピーカで話してよろしいですか」
「そんなことはかまわない、マリさんがどうした、彼女に何かあったのか」
将軍はいつも冷静沈着な大臣がこんなに慌てふためいている声を聞き、やはりと思いながら
「大臣もご存じだと思いますが、昨日の金髪女性への乱闘騒ぎで恥ずかしながら、私の部下の部隊がしでかした事件で大変、大臣にはご迷惑をおかけしてすみませんでした。そして、その件で我々は今、軍法会議にかけられるところなんですが」
「わかった。わかった。それはそっちでやってくれ、それよりマリさんの話をしろ」
将軍は一息ついて、
「我々が呼ばれるのは、当然のことですが、この軍法会議を取り仕切る審問官はマリ・トビシマまで、ここに呼びつけて、まるで我々と同じ犯罪者として、事情聴取をしようとしております。現場にいた、カミーユ大尉から、マリ・トビシマは、ただならぬ人だと思い、大臣にご報告しました」
「なに~、犯罪者だと、おい、そこに審問官もいるのか」
「はい、私が責任者のマリアです」
「このバカ者が~、お前はマリさんがどんな方なのかわかっているのか?」
「普通の女子高生だと思っておりました」
「お前たちは、呼びつける前に素性など事前に調べもしないのか、大統領でさえ、マリさんの都合に合わせて、行動するくらいなのに、お前たちはなんだ王様か、神様なのか、答えてみろ」
審問官達はそこに立ち尽くして、何も言えなくなってしまった。
「呼びつける相手のことも調べず、人を上から見下すことしかできない、お前たちは、この職務を解任させる」
「そんなこと言わないでください。この少女がこんなに影響力のある方だとは思わなかったんです。普通、だれでも、そう思います。我々も情報が少なく、わからなかったんです」
すがるような思いで審問官マリアは泣きついた。アベルはしばらく考えて
「マリさんはもうそこに着いたのか?」
「いえ、まだですが、恐らくもう基地に到着するところだと思います。」
ドニーズ将軍はテキパキと回答した。
「ここだけの話だが、マリ・トビシマは日本国政府高官であり、わがフランスをかつて、救ってくれた、救世主の孫でもある。その救世主が認め、すべてを継承したのが、マリ・トビシマだ。こうして、フランス国が今も存在しているのはその救世主のおかげなんだ。もし、マリさんを侮辱したり、ましてや、なにもしていない、マリさんを犯罪者として扱うようなことがあったら、この国だけでなく、アメリカ・イギリス・ロシア・ドイツ、もちろん日本からも、我々はただではすまない、彼女は今、言った国の国籍はもちろん、望みさえすれば、どの国でも国賓級の扱いをされる方なんだ。そして、世界でも有数な資産を受け継いでおり、この世界の平和を維持するために、尽力されている存在なんだ、とにかく、これから来られるマリさんを皆で迎えに行き、笑顔で対応して、怒らせることのないようにしろ。もし、許してもらえないようなら、どんなことでも、お聞きして丁寧に対応しろ。もし、失敗したら、お前達、わかっているな」
そう言ってアベル大臣は電話を切った。
「あの~、今、マリさんは基地の入り口を通過しましたよ~」
ドニーズ中尉の声が部屋中に響き渡った。




