38話 お別れと仲間
一夜明けて、マリはいつも通り学校に登校した。
マリは学校に着いた途端に、いつもと変わらない校舎や、毎週同じことが繰り返される授業、そして美術部の部活動など、いつもは当たり前だと思われるこの環境が明日からは大きく変わる、同級生や家族や友達、そしてこの世界のすべての人が当たり前のように存在して、誰もが、この世界が消えるような危険があることなど、ほとんどの人が考えもしないが、マリはそういう危険が近づいていると考えるだけで、なぜか、この当たり前の時間がとても大切に思えてきた。
「みんな~、席について!」
担任の板橋先生が大きい声で生徒に声をかけた。
「今日はみんなに急な話があるんだが」
「お~い、飛島、橘、前に出てこい」
クラスのみんなは二人がなにか変なことをしたのではないかと二人に視線を送った。
「明日から、しばらくこの二人はフランスの有名私立高校に留学することになった、
二人とも、みんなに挨拶しろ」
「橘です。急な話ですが、明日からフランスに留学します。短い間でしたが、みんなと会えて
本当に楽しかったです。これからもお互いにがんばりましょう」
「飛島です。急に決まった話で私も驚いていますが、この学校を離れるのは大変悲しいです。
でも、また帰ってきます。今までありがとう」
二人の挨拶が終わった瞬間、松田祥子が立ち上がって、大きい声で
「先生、なんで、この二人がいきなり、フランスに行くんですか」
クラスのみんな、特にユウキがいなくなることを聞いた女生徒達も騒ぎ出した。
その中でも、泣いている子も数人いた。
「私も今朝、聞いたばかりなんだ。なんでも、橘は勉学、飛島は武道においての特待生扱い、まあ、普通の会社でいうと学生版のヘッドハンティングみたいなものらしい」
「先生、橘は勉学で有名なのはわかりますけど、マリって、武道をしていたんですか?
どこの大会にも出てないし、本当に強いんですか?空手や柔道なら松田祥子さんが
この学校で一番有名で実績もあると思うんですけど、どうみたって、松田さんにかなうはずないと思いますけど、そうだよね、松田さん」
松田祥子は先日、マリにぶっ飛ばされた記憶が蘇り、何も言わずにそこに立ち尽くしていた。
「あれ、松田さんどうしたの?ここは思い切り先生やマリに言ってあげた方がいいよ。
私より、弱いくせにおかしいでしょって」
飯沢はすぐに疑問があると容赦なく話してくる、だが、松田祥子はきついしゃべり方をいつもしてしまう性格だが、基本は素直でまじめな性格なので
「先日、マリと試合をしたの、武道ではマリは私より強いわ」
クラスのみんなに動揺が走った。
「え、試合をしたの?本当に松田さんが負けたの?だって松田さんは中学でも空手や柔道など
全国大会でも優勝して、この間もテレビ取材を受けていたよね」
「そうだけど」
「それじゃあ、ちょうどその日は具合が悪かったんじゃないの?どう考えたっておかしいよ、そんなの」
「そんなことはないわ、完全に私は負けたのよ」
祥子は未だにあの時のことを思い出すと、くやしくて震えて涙が出るくらい悔しかった。
「おい、もう質問はそれぐらいにしろ、これは、校長や理事長、そして、フランスの学校もよく確認したことだそうだ、今日でしばらく会えなくなるから、聞きたいことがあるなら、本人に聞け」
そう言って、いつも通りに授業は始まった。休憩時間にユウキの周りには女生徒がたくさん集まり、
隣の席にいるマリは完全に邪魔者扱いだった。
「マリ、急にフランスなんて、びっくりだね」
飯沢がぽつんと一人でいるマリに近づいてきた。
「そうだね。みんなには武道をしていることをずっと内緒にしてたから、おかしいと思うよね」
「そりゃあ、そうだよね。体育の授業でマリが運動能力がずば抜けているのはわかってたけど、そんなに強いなんて思わないよね。ふつう」
「マリ、明日から会えなくなるなんて、さみしいよ」
このクラスで唯一同じ美術部のしづこが話しかけてきた。
「ありがとう、そんなこといってくれるのしづこだけだよ」
「おいおい、僕もめちゃくちゃさみしいよ。だって、僕はきみの彼氏になりたいんだからさ」
「え~、何それ、本当?」
「本当さ、出会った瞬間に感じたんだ。僕も生まれて初めての体験だよ。女性には全く興味がなかったのに、マリと出会ってからは実際、僕の方が驚いてるんだから、それにしても、これも何かの縁かな」
「縁?」
「そうさ、僕の父が外交官をしているって前に言っただろ」
「そうだったね」
「その単身赴任先がフランスなんだよね。これが、だから、マリに何かあったら、すぐに
ぼくが助けに行ってあげるからね」
「そうだったの。でも、たぶん助けはいらないと思うけど、でもなにかあったら相談するね」
飯沢はうれしそうに笑った。そんな時、マリはしづこの腕に異常があるのに気付いた。
「あれ、しづこも武道とかしているの?腕に大きなあざがあるよ」
「本当だ。大丈夫かい。しづこちゃん」
しづこは見られたくないものを見られたと思い、急にふさぎ込んでしまった。
「しづこ!どうしたの、なにかあったの」
しづこは急に泣き出した。しばらくして
「私の家が荒れているの・・・」
「え、だってしづこちゃん家はたしか、お父さんが大きな建築会社の社長さんだったよね」
「そうだけど・・・」
「しづこ、はっきり話さないとわからないよ」
「ごめん、明日から忙しいマリにこんなこと話して」
「関係ないわよ。そんなこと、いいから話して」
「うん。お父さんの会社が最近あまりうまくいってないの。お父さんの会社の下請けさんのある会社と長いこと取引して任せて信頼していたのに、お父さんの会社のノウハウや、お父さんの会社で他で取引している会社をみんな持っていかれて、それとお父さんの会社の部下も高額なお給料をえさに引き抜かれてしまって、最近では売り上げが半分以下になって、それから、お母さんや私に事あるごとに暴力を振るうようになって、最近はすごくひどくなってきたの」
「なんだ、それ、完全なやつあたりじゃないか」
飯沢は大きい声を出した。
「しづこ、お母さんと二人で、お母さんの実家にでも避難したらどう」
「お母さんの両親はいないし、兄妹もいないから、どこにも行くところがないんだよ、
昨日もお父さんが私のことを殴ったから、お母さんが怒って、離婚して、別居するって
言ったんだけど、【好きなところへ出てけ、でも金はないぞ】って言われて」
しづこはまた、泣き出した。マリは困っているしづこに何かしてあげられないだろうかと考えた。でも高校生の私にできることって・・・う~んと考えているところに女生徒に囲まれていたユウキがマリの肩をたたいてニコニコして
「マリ、ちょっと廊下で話さない」
と言ってきた
「わかった、ちょっとしづこはここで待っていて、ユウキくんと相談してくるから」
「じゃあ、僕も一緒にいくかな」
「飯沢君もここにいて、ついてこないで」
飯沢はふてくさた顔をしたが、この男は意外と態度に似合わず紳士なので、マリの言ったことにに素直に従った。
「なに、ユウキ君」
「しづこちゃんの話聞いてたよ」
「へ~、あんなにたくさんのクラスの女の子に囲まれて、よく聞こえたね」
マリはあきれた様子でユウキを見た。
「マリ、マリにはとてつもない資産があるじゃない」
「資産だよ。資産!」
「資産ってなんだっけ?」
「あのね~正月にきたでしょ。渡辺さんや大臣が、まさかマリ、本当にあの時、豆腐をくれるだけだと思っていたの」
マリはしばらく考えて
「思い出したわ。そうだったわ。普段の生活には全く関係ないと思っていたから、ぜんぜん気にしてなかったわ」
「全く、こんなにお金に興味がない人はめずらしいよ。まったく」
「え~と、たしか、渡辺さん、もしくは護衛の人に言えば日本国内5か所の保管庫から、自由にに出し入れしていいって、言ってたよね」
「そうだよ」
「じゃあ、しづことお母さんにお金をあげて別居の手伝いをすればいいかな」
「マリ、たしかにしづこちゃんを助けてあげたいのは山々だけど、僕たちはフランスに行き、使命を果たさなければならない、だから、別の人に任せるしかないよ」
「でも、しづこに近い人で、お父さんの暴力にも対抗できて、私やユウキくんの秘密を知っている人間なんて、いるかしら」
「いるでしょ。すぐそばに」
「?」
マリは首をかしげた。ユウキはあきれた顔で
「マリ、基本的にあらゆる行動や決断はマリが決めることだけど、ぼくは直接的な行動はマリの指示がないとしないけど、最低限の助言はさせてもらうよ」
「うん、頼りにしてるユウキくん」
人懐っこい顔でユウキをマリは見つめた
「全く、調子いいんだから、もういるでしょ。同じクラスに」
「同じクラス?」
「松田祥子だよ」
「なるほど、いたいた、松田祥子が」
ユウキは本当にこんな調子でこれから大丈夫なんだろうかと思った。
「でも、どうしよう、祥子とはあれから、会話もしていないし、私がお願いしてもしづこを助けてくれるかな」
「マリ、前に松田祥子が初めてマリに近づいた時に教室中が青く光ったでしょ。覚えてる?」
「覚えてるよ」
「あれは、滅多なことでは光らないんだけど、マリに取って、必要な人だと、あの球体が感知すると出会った最初だけ、あのように光るんだ。青く光ったということは、、あらゆる局面でお互いに刺激しあい、能力を高めてくれる存在ということで、簡単にいうと波長がピッタリ合うということだよ、だから、話をすれば絶対に大丈夫」
「本当かな」
マリは一人の人間も救えないで、世界が救えるわけないと強く思い、話をしたくないけど、
祥子のところに向かって行った。
「祥子、ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな」
祥子はマリから自分のところに来たのに驚いた様子で
「いいわよ。私もあなたとちょうど話をしたいと思っていたの」
二人で廊下まで出てきて
「なに、話って」
相変わらず祥子はマリに対して敵対心丸出しの目つきでにらんできた。
「祥子に助けてほしいことがあるの」
「助け?」
「しづこが家の事情で大変困っているの。だから、私の変わりに助けてあげてほしいの」
マリはさっき、しづこから聞いたことを祥子に話した。
「いいわ。クラスメイトが困っているんだから、協力するわ」
「よかった」
「今度は私の番ね。ねえ、どうしたの急に二人でフランスなんて」
祥子は睨むようにマリを見た。
「う~ん、どうしようかな。」
マリは困った顔でユウキを見つめた。
「マリ、もう祥子はある程度、我々の秘密を知るものだから、話してもいいんじゃないかな」
「わかった。祥子、今、フランスで人類を脅かす出来事が発生しつつあるの、それで、緊急で向こうに行って、調査して、解決するためにユウキくんと行くことになったの」
祥子は不服そうな顔をして
「私は一緒に行けないの?」
「だって、祥子はこの学校での生活があるでしょ。松田家が創設した学校でもあるんだから」
「そんなこと、言ってられないでしょ。だいたい、マリはフランスに行ったことがあるの、
色々なことに対応するときだって、近くに秘密を知る仲間がいた方がいいんじゃないの?」
ユウキはそれを聞いて、ウンウンと頷いた。
マリは困った顔をしていたため、
「もう、いいわ、勝手にするわ。でも、しづこの件は引き受けたから、その件は責任をもってマリのお願いに協力するわ。それが、片付いたら、私もフランスに行くからね」
「祥子・・・ありがとう」
「もう、ありがとうなんて言わないで、私は自分でそうしたいから、そうするだけなんだから」
「それじゃあ、祥子、一緒にしづこのところに行って話をしよう」
教室で待っているしづこと飯沢のところに行き、いろいろな事情を話した。そして、しづこはクラスメイトである祥子や飯沢、マリ、ユウキが自分に協力してくれることに感謝した。
「しづこ、ごめんね。祥子が代わりに対応してくれるから、安心して」
「うん、ありがとうマリ」




