26話 飛島ヤエ
飛島ヤエ、出雲出身で実家は出雲大社を
任されている。
ヤエは小さい時から、巫女として働き、
兄がいたので、跡取りには縁がなかったが、
寡黙な少女だった。
代々、もう2千年以上、実家はこの出雲大社
と縁があり、俗世間の人達とは全く異質な
生活環境だった、
兄は父の跡を継ぐことができることで、
言葉には出さなかったが、その態度はもう、
この大社では一番といった感じを
かもしだしていた。
ここでは、100人を超える人たちが
通常働いており、各種お祓いや、大きな
年間行事では、1000人を超える人達が
従事することもあった。
父は宮司をしてもう30年そろそろ、
息子に引き継ぐことを考えていた。
「そろそろ、雄大に跡を継がせようと思うが、
どうだろうか」
父、尊は母ウメに問いかけた。
「そうですね。あの子はおととしに結婚もして、
だいぶ落ち着いてきたし、子供も昨年男の子が
生まれたので、いい頃合いかもしれませんね」
「そうだな、本人にも確認して、良ければ、
手続きを進めていこう」
「しかし、ヤエはどうするか。そういえば、
あいつにも注意したんだが、
最近、男とよく一緒にいる噂をきいたんだが、
お前知っているか?」
「あ~ユウキくんのことですか」
「なんだ、お前知っているのか?」
「はい、よくこちらにも遊びにきますから」
「なに、うちのヤエはこの大社の巫女を
していることは知っているのか」
「はい、ご存じですよ。そんなにご心配に
ならないでも大丈夫ですよ。
ユウキくんは学校でも一番の学力があり、
おそらく、帝国大学に入れるだろうと
言われている秀才なんですよ」
「まあ、お前がそこまで、言う男なら、
何もいうことはないが、
あまり、悪いうわさがたたないように
気を付けてくれ」
「はい、承知しております」
父、尊はヤエの持って生まれた能力を
知るごく一部の人間だった。
ヤエは小さい時から、不思議な子で相手が
考えていることや、占いのようなことを
何も教えてもいないのに、スラスラとできてしまう、
巫女として働いてもらっているが、
本当の巫女というか、この出雲大社に
祀られている神にその力を委ねられているように
思っていた。
本来なら、ヤエが男なら、
間違いなくこの大社をまかせ、
たくさんの人の心と人生、そして、日本国国民の
よりどころになる場所に
導いてくれるような気がした。
「ウメ、せっかくだ。ヤエを呼んできてくれるか。
ちょっと、これからのことをヤエと話したい」
「はい、わかりました」
しばらくして、ヤエが父の前に来た。
「お父様、お呼びですか?」
「まあ、そこに座りなさい。」
父の書斎に呼ばれたヤエは少し冷えた畳の上に
正座をして、姿勢を正した。
「ヤエも知っての通り、雄大にそろそろ跡を
継がせようと思う。」
「はい、承知しております。」
「そこでヤエ、お前はこのまま、ここにいても
良いがこれからどうしたい?
今の日本は何やら、これから、大きな戦争に
巻き込まれそうな感じもある、
もしかしたら、我々もどうなるかわからん。
今のうち、やりたいことがあるなら、言ってみろ」
父はこの大社で唯一、自分のことを
理解してくれている人だ。
さすが出雲大社の宮司を受け継ぐ方だ。
「はい、私も今年で15歳になります。
できれば東京の方へ行き、
色々と勉強したいと思っております」
「そうか、東京か」
「はい」
「娘一人で行かせるのは少しこわいが、
女子寮がある学校に通うのはどうだ。
それと、東京ではないが山梨県に
私の親戚もいる、学校が休みの時は
そこに帰ればよい。
富士山が近くてとても良いところだ。
ここは遠いからな」
「よろしいのですか。お父様」
「本当はこんなことは普通の親なら
許さないだろうが、
お前は特殊な能力を持ち合わせている、
小さいころから近所の道場に通い
空手や柔術も覚えてしまい、
近くにいる人の考えていることや運勢も
見抜いてしまう。
こんな田舎でその能力を埋もれさせて
しまうのはもったいないというか、
何か神様がお前の考えを聞き、
手助けしてやれと私に言っているような気が
するんだ」
「お父様はとても、すばらしい心と
たくさんの方を導いていかれる運命を
持ち合わせております。
わたくしもその中の一人だと思います。
わたくしもお父様と同じように違う形に
なるかもしれませんが、
たくさんの方に平和と安らぎ、
そして幸福な人生が送れるよう、
手助けして生きていきたいと考えております」
その言葉を聞き、父、尊はこの子が
長男だったら、どれだけ心強かっただろうと、
ふと思ってしまった。
上京する日がやってきた、
ヤエは慣れ親しんだ町や実家に別れを告げ、
ユウキと共にこの東京、新宿にやってきた。
ここにある清浄学園は全寮生で日本全国や
海外からの留学生なども多く在籍しており、
その中でも特に優秀な生徒が来る学校であり、
卒業生のほとんどが帝国大学や一流大学へ
進学たり、高級軍人になる者もいた。
また、共学ではあるが、当時の共学は
同じ学校というだけで、教室はもちろん、
校舎も男女全く違うところに存在しており、
ヤエとユウキは学校内ではほとんど
会うことはできなかった。
ヤエはこれからの生活は今までと
だいぶ変わるが自分のできる限りのことを
していこうと思っていた。
4月だというのに、とても寒い風が吹く日に
ヤエは清浄学園に入学した。
学校は有名校ということもあり、
とても整備されており、木造の校舎の他に
コンクリートで造られた校舎もあり、
西洋などの建築も取り入れており、とても、
日本の学校とは思えない、
そんなところだった。
そして、入学式も執り行われ、
新入生はそれぞれの教室に入っていった。
教室にはじめて入るとヤエの教室では、
有名学校ということもあり、
華族、資産家、政治家、留学生は外交官や
他国の政府高官の子供などが
多く存在して、ヤエが実家で通っていた
田舎の学校とは全く違い、
同じ制服は着ているけれども、皆、教養や
育ちの良さがわかる、立ち振る舞いで、
ヤエの廻りはそんな息苦しい人達で
囲まれていた。
担任の先生が入ってきたが、
この女生徒の先生は全員女性が担当しており、
40歳ぐらいだろうか、メガネをかけた、
いかにもインテリのような、
容姿でその先生は教壇に立った。
「え~、これからこの教室の担任になりました、
飯塚圭子といいます。
わたくしは、英語、体育、国語を担当いたします。
みなさん、これからよろしく」
「それでは、この教室25人のみなさん、
ひとりづつ、自己紹介をしてください。」
皆、どこの子供か、得意なことは何かなど、
丁寧に自己紹介をしていった。そしてヤエの番になり、
「飛島ヤエと言います。島根県出雲大社から来ました。
実家は出雲大社で宮司をしています。
得意なことは、武道と英語です。
よろしくお願いします。」
そう言った途端、教室の生徒が皆、
ヤエのことを見た、実家が神社の生徒など、
ここには誰もいないからだ。
だが、ヤエは小さい時から近所の道場で
とても厳しい世界で、荒くれ男子達と
もまれてきたこともあり、
ケロッとした顔で席に着いた。
この時ヤエは、日本帝国という国がどこにでも、
目を光らせており、特に優秀な人材は
すぐに引き抜きに合い、戦地や軍に
引き込まれてしまうことなど、
この時は知るよしもなかった。




