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平和への使者  作者: DAISAKU
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第137話 おばあさまの教え

「葉子~今日で会津の道場に行くのは最後になるからな、少し早めに行こう」


「そうですね、兄さんも最後ぐらい、きちんとしてくださいよ。私、松田家の者として

恥ずかしいですから」


「わかってる、それにしても松田家宗家というから、ずいぶん田舎にあると思ったが、こんな街が開けたところに道場があるとはな、昨日も地図でこの道場の場所を見ていたが、まるで、この松田宗家の家や道場を中心に街が開けたような感じだな、駅や空港も近いしな」


「兄さんは、本当にウチのこと知らないんですね。昔はなにもない荒れ地だったこの場所を、おばあさまが小さい時にここで大変に大切にされた、その恩返しで、街の発展に尽力されたんですよ。ただ、ちょっと力が入りすぎて、県内では一番の街になってしまいましたが」


「お前、本当に、よくそんなことを知っているな」


「松田の一族ですもの。当り前ですわ」


葉子は勝ち誇った顔で大介を見た。


「はあ~お前はすぐになにか、僕より優れていることがあると、勝ち誇った顔で話してくるよな」

「あれ、そうですか。そんなつもりはありませんけど」


大介は苦笑いをした。


「おっと、そろそろ時間だ、行こうか」


「はい」


大介と葉子は道場での修業期間、滞在している松田財閥系列のホテルから徒歩で道場に向かった。


「まだ、1時間前だから、誰もいないな、いるのは清掃をされている、あの人だけか」


「兄さん、まだ道場の鍵が開いてませんよ」


「ガチャガチャ、本当だ。ちょっと待ってろ、あの掃除している人に鍵を開けてもらうよ」


「すみませ~ん、ここの鍵を開けてもらえませんか?」


60歳は過ぎている清掃員に声を掛けた。


「はいはい、開けてあげるよ。それにしても、今日は随分早いんだね」


大介と葉子は清掃着がところどころ破れており、それを裁縫で直した服を着ている清掃員のおばあちゃんを見て、こんな年になるまで、清掃の仕事をされて、大変だなと思った。


「はい、今日でこの道場も最後になりますから、最後ぐらいは早く来ようと思いまして」


「あんた達、この間、来たばかりだろ」


「あれ、おばあちゃん、詳しいですね」


「そりゃあ、松田の本家のお孫さんが来たんだ。みんな知っているよ。でも、見たところ、二人ともずいぶん弱そうだけど、鍛錬もせずに帰っちまうのかい?」


「弱い?おばあちゃん、僕たちは弱くないですよ。弱いのはここの道場の人達です。ですから、葉子と相談して、もう帰ることにしたんです」


「アハハ、何を言っておるかい、ここで一番弱いのは、あんた達だろ、練習もろくにしないで

逃げちまうんだから」


大介と葉子はあきれた顔をして、


「おい、葉子、行こうぜ、このおばあちゃんはさびしくて、話相手がほしいみたいだけど、

もう相手してられないよ」


「兄さん、そういう言い方は失礼ですよ」


「おばあちゃん、兄が大変失礼なことを言ってすみません」


清掃員のおばあちゃんは道場に入って行く二人をじっと見つめいていた。


「葉子、あんまり、あの清掃のおばあちゃんにかまうんじゃないよ。ほら、お前がかまってあげるから、掃除もしないで僕たちを見ているじゃないか」


「でも、見るだけなら、いいじゃないですか」


「ふん、もうほっといて、準備しようぜ。今なら誰もいないから、二人で思い切り組手とかできるしな」

そう言って、二人は準備体操から始めて、体を整え、マツから教わった、松濤館流の基本動作などの練習を始めた。10分ぐらい経って


「葉子!組手をやるぞ!」


「はい」


二人は常人離れした動きで、組手をはじめた。その動きはとても早く機敏で二人の体が蹴りや正拳で接触するたびに大きな音が鳴り響いた。しばらくして


「バタン」


葉子が大介が放った回し蹴りが当たり、倒れた。


「いた~い、兄さん、すこしは手加減してくださいよ」


「何を言っている、いついかなる時も油断をするなといつも教えをいただいているだろ」


「そんなこと言ったって、兄さんは私より強いんだから、少しは加減してくださいよ」


そんな会話をしている時に道場の扉に立っている清掃員のおばあちゃんが2人に近づいて来た。


「2人とも弱いの~本当に松田の人間か?」


急に話しかけてきた、そのおばあちゃんに二人は驚いた。


「なんですか、急に、ここはおばあちゃんが来るところではないですよ」


「そうかい、でもこんなに弱いから、朝早くから練習しているのかい」


「弱い?違いますよ。強いのがばれないように早くから来て練習しているんです」


「アハハハ、強くないだろ、おまん達は」


「いいから、おばあちゃんは向こうに行ってください、邪魔ですから」


大介が外に追い出そうとしたら、そのおばあちゃんは


「松田家家訓、逃げることばかり考える者は必ず敗者になる。いついかなる時も適材適所で応ぜよ」


おばあちゃんは二人に話かけてきた。


「おばあちゃん、なんで、松田家の家訓を知っているのですか?」


大介と葉子が不思議そうな顔でおばあちゃんを見ていると、その清掃員のおばあちゃんは急に怒り出して、


「こんの~馬鹿者が~、ここに何をしに来たのかも、見つけられず、逃げて帰るのか~

大介!おまんは思い上がりにもほどがある~自分よりも弱い者だけを見て勝ち誇っておるが、お前は下を見てこれから歩いていくのか~こんの間抜けが~

葉子!まじめに生きている自分に陶酔して、練習も見た目だけやっておるだけで、真剣に練習しておらんだろ、このアホが~」


急に怒り出した、おばあちゃんに目をパチパチして二人はその様子を凝視した。そして、そのおばあちゃんは急に体に力をため始めて、その体格が急にひと回り大きくなった。


「二人共、わしにかかってこい、その思いあがった性根を叩きなおしてやる」


「あの~、おばあちゃん、そんなお年で無理はしないほうがいいですよ」


そう大介が言った途端、大介は見えない何かに当たりすっ飛ばされた。


「ほ~れ、思いあがりのバカがもう倒されおった。弱いの~わしは、若い時に比べれば、かなり体力もなくなったが、お前達のような弱~い相手なら、まだまだ、楽に勝てそうだわ」


葉子は一瞬で兄が倒されびっくりして


「葉子もかかってこい」



びくびくしている葉子にそのおばあちゃんは蹴りを突き出した。


「バチン!」


葉子も一瞬で倒された。


「葉子、おまんも弱いの~」


倒された大介と葉子は驚いた顔でおばあちゃんを見た。


「あなたはいったい・・・」


「ふん、おまん達、わしは、60を過ぎてからは、ここでずっと清掃員をしておるんじゃ、けども、姉さんが孫が行くから様子を見てくれというから、掃除の合間に見ててやったんじゃ、どんだけすごい孫が来るかと楽しみにしておったら、こんな弱いバカな孫だとは、フ~、

本当に姉さんの孫か?お前達」


「姉さん?」


「なんじゃ、わしのことも知らんのか?」


「兄さん、たしか、会ったことはありませんけど、おばあさまには3人姉弟がいると聞いたことがあります」


「それでは、あなたはおばあさまの妹なのですか?」


「まったく、親戚の顔も知らんとはな、わしは松田タエ、マツ姉さんの妹だ」


また、二人は驚いて


「あの~おばあさまの妹がどうして、そんな身なりで、ここで清掃員なんて、やっているのですか?」

「昔、私達姉弟3人は、ここで大変お世話になった。だから、私は、松田宗家のあるこの街で、姉さんの指導の下、精一杯頑張ってきた。そして60歳になり、主だった仕事は若い人たちに引継ぎ、思い入れのあるここで清掃の仕事をしているんだよ」


タエは清掃のほお被りを外しながら、二人を見つめた。大介と葉子はタエがマツとそっくりな顔立ちをしていることに驚き、黙って話を聞いていた。


「お前達は、わしのこの身なりと言ったな。姉さんやわしは小さい時にどん底の貧乏暮らしをしていてな、物を見る能力が普通の人と違うんだ。この服だって、大事に着れば直しながらでも長いこと着れる、この服の破れたところや汚れが取れないところは私が頑張ってきた証なんだ。どんなことにも真剣で取り組むことによって、見えてくるものがある、なぜ真剣になるか、それは自分自身を磨くことで、たくさんの人達を幸せにできたり、自分の存在価値を高めることができるからだよ、まだ幼い、お前達にはわからないだろうがな、大介、葉子、姉さんが2週間ここで鍛錬しろと言われたんだ。まだ1週間残っている、だからそれまで、ここから逃げ出すことは許さん、わかったな」


大介と葉子は目を合わせて、それからタエを見て


「わかりました」


「ここに通っている練習生や先生達は、毎日の鍛錬で心と体を鍛えにやってくる。昨日よりも今日、今日よりも明日、その思いは弱いものを見下したり、強い者を妬ましく思うためではない、毎日、自分の心と向き合い精進するために来ておる。お前達は姉さんの孫で特別だとか、誰よりも強いだとか、そんなことは、ここでは全く関係ない、常に自分自身と向き合い、鍛錬を積め、行き詰ったら、ここで、清掃員をしているおばあちゃんに声をかけろ、いつでも、稽古を付けてやる。よし、そろそろ、みんなが来る頃だ。頑張れよ、二人とも・・・」


タエは笑いながら、道場を出て行った。


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