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平和への使者  作者: DAISAKU
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第136話 大介の記憶

マリと葉子の試合も終わり、大介はマリに稽古を30分ほど付けてもらった、マリは大介の弱点を理解して、どういうところを鍛えるのが良いか、的確にアドバイスをしてくれた。


しかし、さきほどの葉子とマリの試合内容に頭をハンマーで殴られたぐらい衝撃を受けていた。

松田大介は武道館のイスに座り、一人、物思いにふけっていた。その様子を見ていた葉子は


「兄さん、ここを閉めますよ。早く出てください」


「ああ、そうだな、すぐ出るよ」


「兄さん、隣の建物のサロンでポーラが手配してくれたので、一緒に食事をしませんか?」


「ああ、そうだな・・・」


大介は葉子がこの短期間でめざましく武道が上達したことに驚いていた。

そして、いつのまにか自分は葉子に追い越されてしまっているとわかり、落ち込んでいた。


『日本で毎日かかさず鍛錬を積み、常に上を目指してきたが、しかし、国内どころか世界にも自分より強い者がおらず、下ばかりを見て生きてきたような気がする』


そう、大介は思った。


「兄さん、どうしたんですか。めずらしく悩んでいるようで」


葉子は大介より自分が強いことがわかり、マリには絶対に口止めをされていたが、どうしても兄を見るときに勝ち誇ったような顔になってしまっていた。


「お前さあ、その勝ち誇ったような顔でどうしたんですか。なんて言うのやめてくれるか。

余計に俺がみじめだろうが」


「そうですか?そんなことはありませんよ。元気を出してください。兄さんもこれで用事も済んだし、日本に帰れるじゃないですか」


「葉子さあ、マリさんとの修行はまだ続けるのか?」


「もちろん、続けますよ。師範には、まだまだ弱すぎると言って、いつも叱られてますから」


「はあ~いいよな~ それにしても、お前、最近、変わったよな。前はもっと暗くて元気がなく、小さいことばかり言ってくる口うるさい妹だったのになあ~」


「なんですか?それは誉めているんですか。けなしているんですか」


「両方かな~」


「さあ、兄さん、とりあえずここは出てください。私が戸締りを頼まれているので」


大介は元気のない足取りで武道館を出た。そんな時に大介の肩を軽くライアンがたたいた。


「ダイスケ、今日はお疲れ、最高に楽しい時間だったよな」


「そうだな」


「ダイスケは日本に帰るんだろ」


「まあな」


ライアンは妙に浮かれたような顔をして、


「なんだ~お前ニヤニヤして気持ち悪いな」


「ダイスケには話してしまおうかな~」


「何だよ。もったいつけて」


「マリとさ~、さっき連絡先の交換してさ、月に1回ぐらいなら、時間があえば、稽古をつけてくれるって言われてさ~毎月マリに会えるようになったんだよ。最高に僕はラッキーだよ。これで練習を積み重ねれば、次の大会は世界1位の座はいただけそうだな」


「お前、いつの間にそんな約束したんだよ」


「ダイスケはぼ~っとしていたからな、できる男は行動あるのみだろ。お前との対戦が楽しみだな」


そう言って、ライアンは帰って行った。大介はまた、自分が置いて行かれてしまうような気持ちになった。


『そういえば、昔、今と同じような気持ちになったことがあったな、もう、あれから15年ぐらいになるな』


ダイスケは隣の建物に移動しながら、青い空を見ながら、松田宗家のある会津若松に行った時のことを思い出していた。



「大介~お前はいつも、いつも、いたづらばかりしおって、何をしておるか~」


「イテテ、耳を引っ張らないでよ」


「お前は本当にあのマツさんの孫かあ、全く武道の修行に来ているのに、毎日毎日、あちこちに行ってはいたずらばかり、いい加減にしろ!」


「先生、毎日毎日、修行なんてつまらないよ。僕はまだ子供なんだし、色々なことをして遊びたいんだよ~」


「はあ~お前はそれでも、松田家を継ぐ男か?妹の葉子を見てみろ、毎日必死に鍛錬をして、文句ひとつも言わないぞ、お前とは大違いだ」


「葉子?あいつはロボットだからね、おばあさまがこわくて言いたいことも言えない、弱っちさ」


「コラっ、一生懸命、練習している者に向かって、失礼なことを言うんじゃない」


葉子は兄をバカにするような目つきで


「おバカ兄さん、そんなに遊んでばかりだと、いつか、私の方が兄さんより強くなっちゃうわよ~」


「なに~このロボット娘がおばあさまがこわいから、いつもまじめにしているんだろ。そんなに練習が好きなら、一生やってろ!べ~だ」


葉子は兄にバカにされて、悲しくて泣いてしまった。


「え~ん・・・」


「ダイスケ!お前は本当にどうしようもない子だ。こっちへ来い」


先生はそう言って、ダイスケを引っ張って納屋に閉じ込めてしまった。


「しばらく、そこに入って頭を冷やせ!」


真っ暗な納屋に閉じ込められてしまい、大介は出ることもできなかった。しばらくして真っ暗な納屋に目が慣れてきて、辺りが少し見えるようになってきた。


「全く先生は、こんなところに入れて、少しは遊んだっていいじゃないか」


真っ暗な部屋で大介はつぶやいた。ここでは、することもないので、納屋の中の大きな箱の上に横になって、しばらく、ウトウトと昼寝をしていた。今は8月のお昼過ぎで外は日が出ていて暑いが納屋の中はす少しひんやりしていて、気持ちよかった。だいぶ、長い間、昼寝をしていたようで、武道をならっている者達が練習が終わり、納屋の外側の道を歩いて、帰っているようで話声が少し聞こえてきた。


「ハハハ、あの本家の子供達見たか、あれで、松田家を伝承する血筋かよ。ぜんぜん強くないよな。お金持ちの家に生まれると生活に苦労もないから、あ~いう、だめな奴になっちまうんだよな」


「そりゃあ~そうだろ、なにしろ松田財閥の孫なんだからさ」


「でも、あんな孫じゃあ、この先、松田財閥もどうなるかわからないな」


「都会育ちのお坊ちゃんはだいたいあんなもんだろ」


「おんずくなし野郎だ~」


「アハハ、いいな~その呼び方」


数人の練習生がそんな話をして帰って行った。


大介は、


『まあ、8月に急に来たから、そう言われるのも無理はないか。でも、あいつら明日は覚えていろよ』


と強く思った。そんなことを考えていたら、外から


「ガチャ」と音がした。


「兄さん」


外には妹の葉子が立っていた。妹の葉子は2歳下で今年で10歳になる。


「悪いな、葉子」


「も~う、兄さん、何をしているのですか。こんな遠くまで来て、遊んでばかりではだめじゃないですか」


「さっきはごめんな葉子」


「うん・・・ 私ね、他の子に何を言われたって、平気だけど、兄さんにあんなこと言われたから、

泣いてしまったの。もう、私にあんなことを言わないでね」


「あ~ごめん、反省してる」


「でもお前は相変わらずまじめだな~、やっと、あの厳しいおばあさまから離れることができたんだぞ。たまには羽をのばしたって、いいだろ別に」


大介は背伸びをして、笑った。


「あれ?それより、どうしたんだ。お前、顔、あざができてるじゃないか」


「うん、平気よ。先生が軽く、実戦形式で練習しようと言ってきて、先生の攻撃をすべていなしていたら、先生が本気を出してきて、不意をつかれて顔に当たっちゃんだ」


「まさか、お前、本気を出したのか」


「まさか、おばあさまから、きつく言われているから、本気ではやってないわ」


「そうか、僕らはいつも習っている松田松濤館流は直系の血筋しか伝承されないし、むやみに、使ってはいけないと言われているからな」


「でも、兄さん、ここにいる宗家の人たちだけど・・・」


「あ~わかっているよ。僕たちより、強い人など一人もいないな、先生も含めて、でも、いったい、

おばあさまは、僕たちにここに来て、何を学んでこいとおっしゃられたのか、全くわからないな」


「兄さん、私もう、帰りたいよ。これなら、おばあさまやお父様に稽古を付けてもらったほうがいいもの」


「そうだな、明日、先生に言って、帰らせてもらうか」


「うん!」


その日の夕方、道場では


「板橋君、どうだい、松田本家の兄妹は」


「そうですね。長男の大介はほとんど練習しないで、いたづらしたり、勝手に外を散歩しに行ったりで、落ち着きがないですね。妹の葉子はまじめで筋はいいようですが、まだまだ、力強さが足りませんね」


「そうか、あのマツさんの孫だから、どれほどの者かと思ったが、そうか、たいしたことはないか」


「館長、どうしますか?」


「そうだな、明日、試合をして、自分の実力のなさをわからせ、基本から教えていくしかあるまい、マツさんにも厳しく鍛えてくれと言われてるしな」


「誰と試合させますか?」


「そうだな、まず大介は同年代の竹内とか、香川あたりでいいだろ、あいつらはこの道場では有望株だしな、妹の葉子も同年代の女の子がいたろ、たしか・・・」


「若松ですね」


「そうだ」


「わかりました」


「明日は私も道場の方へ行くから、あの兄妹に引導を渡してやろう」


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