第131話 マリの一番弟子
8月の澄み切った青空、空気はキレイでさわやかな土曜日の朝がきた。今日はポーラの家で空手の試合とその後、同級生とパーティをする日だ。
フランスパリ郊外治安情報局の住居棟では、朝からバタバタしていた。
「ドンドン、兄さん、起きてますか?時間ですよ」
ダイスケは昨晩、イブの掛け声でレナードやクラークと合わせて歓迎会という名目で
食事やら飲み会やらをして、深夜にここに帰ってきた。マリ・エマ・ユウキ・レナードは
あまりお酒も飲まないことから、1次会ですぐに帰ったがその他は飲み会で盛り上がり、
思い切り2日酔いだった。
「あ~誰だ」
「バン」
葉子は扉を勝手に開けて入ってきた。
「兄さん、なにやっているんですか、早く用意しないと遅れますよ」
「ん~、今、何時だ?」
「7時30分ですよ。マリさんは8時30分に出ると言っているから、急いで用意してください。下でベータがダイスケ遅いぞとぼやいてますよ。それと、この日のために兄さんは来たんでしょ」
ダイスケはぼ~っとしていたが、急に起き上がって
「いけね!今日試合の立ち合いだった」
やっと目が覚めたダイスケは急いで用意を始めた。用意をしながら昨日のことを思い返していた。
『ふ~、全く、あのイブさんという人はとんでもない人だったな、我々、全員が楽しく飲めるようにあの手、この手で持ち上げては落とし、しかも、カミーユ大尉達は、イブさんが大嫌いと言いながらも、心の中では憧れと信頼の気持ちが感じ取れるようだった。自分もあの人ぐらい、人に信頼され、リーダーシップを発揮できるようになりたいと心底思えたな、しかし、ポーラとイブさんはとんでもない酒豪だったな』
妹の葉子も布団を直したり、兄の準備を手伝った。
「兄さん~道着も持っていくのですか?」
「持っていくよ。マリさんに少しでもいいから稽古をつけてもらいたいからな」
「わかりました、じゃあ、カバンに入れときますよ。それと、みんな朝食を食べているから急いでください。ベータにも食事用意してもらいますから」
「お~わかった」
「それにしても、お前、なんで朝から、そんなトレーニング用の服なんか着ているんだ?」
「あれ、兄さんに話していませんでしたっけ。私、松田葉子は師範 飛島マリの一番弟子になったんですよ。マリさんの警護の日は毎朝、朝4時ぐらいから稽古をつけてもらっているんです」
「なに~、なんだそれ、聞いてないぞ」
「は?聞いてないぞと言われても、なんで兄さんにいちいち報告確認しなきゃいけないんですか?普段の私の生活にだって、ぜんぜん興味をしめさないじゃないですか」
「これと、それとは別だ。お前ばっかりずるいぞ」
「ずるくありません。それとマリさんにはあまり言うなと言われてますが、兄さんには話しちゃいますね。私、ほんの少しだけど、秘奥義も使えるようになってきたんですよ。うふふふ」
「なに~」
「だから~、もし~今、兄さんと~試合したら、わたし~勝っちゃうかも~」
「なに~」
「あっと、いけない、時間がないんだった。とにかく兄さん急いでくださいよ!」
そう言って葉子は下に降りて行った。
「おい、葉子、ダイスケは起きたか?」
「はい、起きました」
「そうか、あいつは昨日ずいぶん、盛り上がっていたからな」
「あの兄さんがですか」
「そうだぞ、かなり酔っっぱらって、マリのことばかり、話をしていたぞ、あいつはマリのことを相当好きみたいだぞ」
「え、あの女性には誰にも興味を示さない、兄さんが」
「ハハハ、そうだ、昨日も「マリさ~ん」なんて大声出してたぞ」
葉子は少し怒った顔をして
「全く、自分が何歳だと思っているのかしら、マリさんと兄は一回りも年が離れているのに」
「まあ、そう怒るな、恋愛に年なんか、関係ないだろ。お前もあいつの妹だから、男性経験は貧弱そうだな」
「余計なお世話です。わたしは今、マリさんの警護がライフワークですから」
そんな話をしているビストロ(食堂)でレナード・クラーク・ユウキが同じテーブルでご飯を
食べていた。
「どうだい、レナード、ここでの生活は」
「はい、兄さん、とても快適にさせてもらっています。ここは静かでとても景色がよく、居心地がいいです」
「僕もこんなに快適なところで生活ができて、毎日とても楽しいです。ユウキやイブもそうですが、あのエマ相談役の知識の奥深さ、話しているだけで、本当に楽しく、刺激があります。
それと、エマの息子セドリックの開発技術も驚く物ばかりで、マリの許しがもらえるなら、
大学なんかやめて、ここで一生働きたいぐらいです」
レナードは孫がこんなにも生き生きしている姿を見て、すごく嬉しかった。
「レナード、今日はどうする?僕たちと一緒に来るかい?」
「そうですね。パーティは若い方達なんで遠慮しますが、その前に行う、マリさんの試合、
ぜひ拝見したいですね。こんな、すごい方達をまとめる局長の実力を直接、見てみたいです」
「僕も、おじいちゃんと一緒に行動するよ」
「そうか、わかった。今日はアンナ軍曹も絶対に試合を見に行くと言っていたから、もう少しでここに来るから、車での送迎はアンナにお願いしておくから、それとアンナは今日は出勤扱いにしているから、パリで行きたいところや買い物なんかあれば、案内させるから」
「すみません」
「おっと、レナード達に言っておくことがある。今日の買い物もそうだが、これから、必要な物があれば、このDカードを二人には渡しておくから、これで買ってくれ、これは上限がない特殊なカードだから、あと、カミーユ大尉のチームがこれからレナード達をサポートしていくから、出掛ける時は気軽に連絡してくれ」
「何から何まで、面倒かけてすみません」
「いいんだ気にするな」
1階のビストロでみんなが朝食をしている中、マリは今日のパーティのことで頭がいっぱいだった。着ていく洋服や同級生と、どんな話をしようかなど、今日は思い切り高校生として楽しもうとウキウキしていた。着ていく洋服が決まらず、脱いでは着ての繰り返し、それと葉子にもらった、化粧品もいっぱいあり、部屋の中でバタバタとしていた。
「はあ~洋服をきめて、それから化粧をしてと、ちょっと待てよ、試合があるから、そのあとに化粧をすればいいか、でも、向こうに行ってそんな時間あるかな、やっぱり全部きめて行ったほうがいいかな~」
そんなふうに悩んでいる時に
「コンコン葉子です。マリさんよろしいですか」
「はい、どうぞ」
「準備ができたかな~と思い様子を見にきました」
「葉子さ~ん、ちょうどいいところに来てくれました。ねえ、今日着ていく服はこれでいいですか?」
「う~ん、友達と会うには問題ないですが、今日行くあの建物は離宮プチ・トリアンですから、普段着よりもちょっと気品のあるこちらの服なんか良いと思いますよ。それと、この髪飾りや
イヤリングもつけて、あとブレスレッドもこれを付けて、靴も気品あるこれがいいですね」
「ありがとう~葉子さん、いつも、色々な物を買ってきてくれるから、こんな時、本当に助かります」
「なにを言っているんですか。私は、パリのお店はかなり詳しくなっていますから、任せてください。でも、マリさんは高校生ですから、年頃の流行に会わせて、あまり高級ブランド品はつけずにこれぐらいの感じでいいと思います」
「はい、じゃあ、これで行きます」
「マリさん、お化粧は試合が終わったら、ポーラに化粧室を借りていますので、そこにだいたいの物はそろっているようですから、わたしがばっちり、メイキングをしますから、安心してください」
マリはうれしそうな顔をして
「葉子さん、いつもありがとう」
「それでは、もうすぐ、時間ですから、この洋服を着て出かけましょう。道着もこの荷物に入っていますか?」
「はい、それは持って行って大丈夫です」
マリは、一人っ子で小さい時から、ずっと姉妹がほしかった。葉子はいつも、マリが生活で困るようなことは先回りして、色々と世話をしてくれるお姉さんみたいな存在になっていた。




