第115話 底知れぬ力
じゃあ、マリここで待ってて、師範に話をしてくるから」
「うん、わかった」
マリは練習着に着替え、腰には白帯を巻いて、隅っこに立っていた。
「ツンツン」
マリは背中をつつかれて、振り向いたら、10歳ぐらいの男の子が立っていた。
「お姉ちゃんも空手習うの?」
「う~ん、習うというか体験かな」
「僕はね、学校で、一番強いんだけど、もっと強くなりたいから、ここに来たんだ。
お姉ちゃん、知ってる、ここにはフランス代表の空手の選手がいるんだよ。
国内じゃ敵がいないくらい強いんだ」
「へ~そうなんだ」
「なにその反応、お姉ちゃん、実は空手弱いでしょ。
そんなかわいい姿じゃ、ここ、厳しいから、いじめられちゃうよ」
「平気よ。別に」
「でも、大丈夫だよ。お姉ちゃんがいじめられたら、僕がすぐに助けてあげるよ」
「ありがとう。坊やお名前は?」
「レオン、お姉ちゃん名前は?」
「マリよ。よろしくね」
「うん、よろしく」
レオンはニコっと笑って、空手ができるのがとてもうれしいようで、落ち着かない様子だった。
「マリ~、師範を連れて来たよ。こちらが、アイアン師範」
「ボンジュール、アイアン」
「ボンジュール、マリ」
握手をしながら、アイアンを見て身長が190cmはある大柄な体格で、
年齢は25歳ぐらいだなと思った。
「マリは、日本人で道着を着ているということは、少しは空手の経験があるのかな?」
「はい」
「そうかあ、でも白帯だから、まだ、みんなと一緒にやるのは無理かな」
「いえ、別に大丈夫ですよ」
「でも、白帯だろ」
「アイアン別に気にしないでください。皆と同じように接してください」
「そうかあ、一応、高校生は一般人扱いだから、大人に混じってやるようになるけど」
「はい、よろしくお願いします」
「え~と、もう一人は小学生でレオンか。向こう側で集まっているのが小学生のグループだから、向こうに行って、話を聞いてね」
「はい、わかりました。それじゃあね、マリ」
「頑張ってね。レオン」
レオンはものすごい勢いで、小学生のグループへ走って行った。
「さ~て、もう少ししたら、練習が始まるけど、とりあえず、マリの実力を試してみるか」
アイアンは165cm程度のマリをじ~っと見つめて、不安そうな顔で見つめていた。
「師範、どうしますか?師範と組手をすれば、すぐにわかると思いますけど」
「ハハハ、それは、無理だよ。マリにケガでもさせたら、大変だからね。
カトリーヌ、君はこの間、黒帯になったけど、少し加減をして、マリと組手をしてくれ」
「はい、師範いいんですか。こんな白帯の素人にいきなり組手なんて」
「本人が大丈夫と言っているんだ。とりあえず、やらせてみよう」
「マリ、私が相手をしてあげるから、それじゃあ、向こうに行ってはじめよう」
マリは空手の練習するスペースに入る時に大きな声で
「よろしくお願いします!」
と大声を出して一礼した。
武道ホールに100人ぐらいの人達が一斉にマリのことを見た。
「マリ、アイアン師範はフランス代表の選手でもあるんだよ。そんな人といきなり、組手なんて、危険な事は言わないでね」
「う~ん、ここでは、私とまともに相手をできる人は一人もいないけど、アイアンなら、
少しは私についてこれるかな~と思ったから、そうだね、アイアンがケガをして、
試合にでれなくなったら、大変だしね」
「何を言ってるのマリ、あんまり、調子に乗ってはだめよ」
「調子に乗ってないよ。1か月ほど前にも、空手世界チャンピョンも私の動きに
ついてこれなかったから、だから、カトリーヌは思い切り力を出していいからね」
「ふ~、マリがこんなにホラを言う子だと思わなかったよ」
「ん?私はウソはつかないよ。昨年の世界チャンプは松田大介でしょ。信じられないなら、
今度、ここに連れてきても、いいけど」
「マリ、いい加減にして、ダイスケ マツダは私の憧れの人なのよ。
これ以上、ウソを言うなら、承知しないわよ。もういいから、はやく組手をしましょう」
「だから、ウソは言わないよ。わたしは」
二人は向かい合い、アイアンの合図で組手が始まった。
「はじめ!」
とアイアンが言った瞬間、マリの突き上げた足がカトリーヌの顔の目の前にあった。
空手の組手は相手に打撃を与えず寸止めである。
しかし、あまりにも、マリの動きが速すぎて、誰もその動きについてこれなかた。
マリはアイアンを見て
「アイアン!1本でしょ」
アイアンは目をぱちぱちさせて、茫然となった。しばらくしてアイアンは
「一本!」
と声をだした。カトリーヌは何が起きたかもわからず、何もできずに驚いた様子で
「マリ!今何をしたの?」
「何をしたって、動いて蹴りを出したんだけど、あんまり早く動くと悪いから、ずいぶん加減をして、ゆっくり蹴りを出したんだけど」
アイアンも驚いた様子で
「マリ、一体、どうやって動いたんだ」
「あれ、ずいぶん加減してゆっくり蹴りを出したのにアイアンにも見えなかったの?
困ったな。こんなに手を抜いて、驚かれちゃうなんて、
やっぱり、この道場は私には向いてないみたい」
マリは申し訳なさそうに苦笑いをした。
マリは一礼をして、
「アイアンも含め、皆さん弱すぎて、ここでの体験は、これで終わりとさせてもらいます。
どうも、お邪魔しました」
マリは、そう言うと、スタスタ、出口に向かって歩いて行った。それを追いかけるように
アイアンとカトリーヌが着いてきた。
「マリ、僕とも組手をしてもらえないか」
「う~ん、アイアン、こんなに人がいるところで、15歳のしかも女の子に組手で負けたら、
立場がなくなっちゃうんじゃないですか。松田大介さんにも言いましたが、もっと修行をして
強くなられたら、お相手します。はっきり言って、アイアン、あなたは私から見ると弱すぎます」
アイアンは自分がバカにされたような思いで、悔しがり、もう一度
「マリ、戦わずして、負けを認めることはできないよ」
「そうですか。今日ここでは人が多いですから、あ、そうだ、今度の土曜日にパーティがあるんですけど、その前にそこで、組手をしましょうか。ご都合はどうですか?」
「ご都合なんて、マリに合わせるに決まっているよ」
「そうですか。それならば、パリ郊外の離宮プチ・トリアノンをご存じですか」
「もちろん知ってるよ」
「そこに、そうだな~9時に来れますか」
「大丈夫だけど、そんな有名なところに入って大丈夫なのかい」
「え~、大丈夫ですよ。その日は所有者から私が借り切っていますから、普通に車で来てもらえば、警備の者に案内するように伝えておきますから」
「マリ、君は一体何者なんだい?」
「私は普通の高校1年生ですよ」
マリはうらやましそうに話を聞いているカトリーヌを見て
「なに、カトリーヌ、私の顔になんか付いているの、そんなに見つめられても困るんだけど」
「ねえ、マリ、私もアイアンとそこに行きたい、だめかな?」
「う~ん、さっき、カトリーヌにはホラ吹きだとか、ウソつきだとか、言われたからな~」
「お願い、マリの話、信じるから」
「じゃあ、条件があります。当日はユウキやイブも来るんだけど、クラスの女子をできるだけ呼んでくれたら、来てもいいよ。パーティは土曜日の11時ぐらいから始めようと考えているから、前の日までに来れる人のだいたいの人数を連絡して、食べ物や飲み物の準備があるから」
「え、それじゃあ、手ぶらで言っていいの?」
「もちろん」
「すご~い、マリ、できるだけ女子を連れて来れるように頑張ってみるね」
「お願い、私なんだか、楽しみになってきたな~」
いろいろとあったが、うまくクラスの女子を誘えることになり、マリはニヤついた。




