第110話 反省と清掃
「局長!ちょっと待ってください」
ブルーノは部屋から出て行った、マリ達を大声で叫んだ。
マリは振り向いて
「何かしら?ブルーノ」
小走りでブルーノは近づいてきて、
「どうすれば、許していただけるんですか」
イブは少し、怒った様子で
「お前はバカか?外務省の職員が、さっきはマリに帰れと言ったくせに今度は軽々しく、
帰らないでくれだと、お前には自分の言葉や行動に責任というものがないのか」
「そう言われましても、どうすればいいか、わかりません」
「お前、ふざけるなよ。心の中じゃ、自分が世界で一番頭がいいと思っているんだろ、
だったら、なんで、自分で考えない、お前は世界で一番、頭が悪いんだよ。
だから、こんなことが起きたんだろ。ばかのくせにプライドばかり、
一人前でいざとなったら、自分じゃ何もできないお子ちゃまが、
全く、良い大学に行ったって、そんなものは頭の準備体操で、世の中に出たら、
なんの役になど立たないんだバカが」
ユウキもあきれた様子で
「マリが言っただろ、外務大臣と首相と話せと、そして、お前が自分で考え行動しなければ、
マリは絶対に許さない」
「わたしなんかの話を大臣や首相が聞いてくれるでしょうか?」
「だから、自分で考えろ、お前は親に過保護にされて、なんでも、人の言う通りに
ずっと生きてきたんだろ、自分で考え、行動することが、本当に生きると言うことだ」
ブルーノは茫然とそこに立ち尽くし、マリ達が帰っていくのをただ、見ていた。
そして、後ろからディルク外務大臣が近づいてきて、
「ブルーノ、これから、分きざみで、国防・警察・教育・環境など、
数千人規模でのプロジェクトがお前のせいで、ぶっ飛んでしまった。
金額にしたら、100億オイロ(ユーロ)以上の損失がでるだろう」
「100億オイロ(1兆2500億円)!」
「お前に、払えるのか?ドイツ政府として、ブルーノ、この損失をお前ひとりで考えどうにかしろ。マリ局長はお前を指名しているんだからな」
「どうにかしろと言われましても、私には無理です」
「そうか、ならば、お前を逮捕する。この件はドイツとしての汚点になる、
一生、刑務所に入って、人生を終えるがいい、お前の親や友達にも犯罪者として知られるな。
まあ、どうせ、一生刑務所からは出れないんだから、関係ないか」
ディルク外務大臣はため息をついた。
「ちょっと、待ってください。そんな、いきなり、刑務所なんて、ひどすぎます」
大臣は、また、ため息をついて、
「お前は、本当に自分のことしか考えていないな。マリ局長達の協力があれば、
数えきれない人達が命を救われたり、困窮する生活をする人達の人生を好転させる、
きっかけを作れたり、したんだ。
マリ局長達の言う通り、
お前は自分のことだけしか考えない最低の人間だな、そこらへんにいる子供の方がまだ、
お前よりはマシだな、ドイツで最もバカで、最悪の犯罪者として、刑務所で生きていけ、
お前には、元々なんの価値もない、
ここドイツ外務省で働く人間は自分よりも国民のことを第一に考える、
ドイツでも最高の機関なんだ、試験でいい点を取ったって、
そんなものは何の役にも立たない。
おまえは入省してから、なんの成果も挙げられないクズだから、解雇されたんだ。
そんなことも、わからないやつが、人を見下すなんて、バカの上塗りだな」
ブルーノはいつも、資格試験や、昇格試験ではいつもトップの成績を取るが、
そのため、自分が世界で一番頭が良いと思っていた。
しかし、それだけで、他の人と協力したり、チームで行動したりすることは全くできず、
試験の点がいいだけで、仕事は全くできない男だった。
そのことが、今回の件で、少し、わかってきたようだった。
「やっときたか、そいつを国家反逆罪で逮捕させる。さきほど、秘書官が警察に連絡したから、
警察が来るまで、警備員室で拘束しておいてくれ」
「承知しました」
警備員はブルーノを拘束して、警備員室に連れて行った。
ディルク外務大臣は頭をかかえて、考えこんだ。マリ局長にどうしたら、許してもらえるだろうかとしかし、この件は速やかに、関係各所に連絡しなければならないが、まず首相に報告することが優先と考え、すぐに連絡をした。
「おう、ディルクか、どうだ、フランス治安情報局との打ち合わせは、無事に終わったのか?」
ブルクハルト首相はマリ達の協力が、主要国の中でも、
最初になったことをまだ喜んでいる様子だった。
「それが、ウチの職員がマリ局長達に大変失礼な態度を取り、何も話さないうちに、
フランスへ帰ってしまいました」
「なに~、なにがどうなったら、そんなことになるんだ!」
「偶然、外で、マリ局長達とうちの職員が遭遇しまして、外務省は子供のくるところではないとか、すぐに帰れだの、状況が全くわかっておらず、このような事態になってしまいました」
「お前が、ちゃんと、省内に指示を徹底しないから、こうなったんじゃないのか」
「はい、大変、申し訳あありません」
「はあ~、ここまで、くるのに私がどれだけ苦労したか、ディルクはわかっているだろう」
「はい、よくわかっています」
「困ったな、これで、わが国だけ、来ていただけないとなれば、一段と主要国から遅れを取り、
これから主要国なんて言われなくなるかもしれんぞ」
「それで、マリ局長はどうすれば、また来ていただけるんだ」
「今回の件の原因になった、外務省職員ブルーノに首相や私と相談して、
どうすれば許してもらえるか、考えて、連絡を再度してくれと言ってました」
「なるほど、完全に拒絶されたわけではないのだな」
「はい、ですが、ブルーノは自己中心的な考えしか持たない男で全く反省すらしていません。
まるで、自分は運悪く知らないフランスの高官に街で合ってしまったぐらいにしか、
考えていません。ですから、私は、生涯、刑務所に行くことを指示しました」
「なるほどな、一番始末の悪い奴というわけか」
「はい」
「ならば、外務省で、一番給料が安く、皆から軽視される仕事はなんだ?」
「一生懸命、働いている方に大変失礼ですが、清掃員でしょうか。
共用部の清掃はもちろん、各室内の床や職員が出すゴミなんかを片付ける仕事ですが」
「よし、それで行こう。ブルーノには犯罪者としてではなく、
外務省の職員のお世話をする清掃員の仕事を生涯やってもらおう」
「清掃員ですか」
「そうだ、今まで、外務省職員だった男が外務省で一番、給料の安い清掃員をやる。
そして、マリ局長には、今回の非礼を外務省職員として詫び、言葉だけでなく、
この外務省とブルーノ本人の心の清掃をするこで、お許しをいただくしかあるまい」
「外務省とブルーノの心の清掃ですか。首相もうまいことをいいますね」
「外務省で一番給料が安く、ましてや、ブルーノ本人が省内で一番見下していた
清掃員になることで、清掃という仕事がどれだけ大変で、体力を使うか、
そして、とても疲れても給料は安い、ブルーノもこの仕事で心を入れ替えてくれればいいがな」
「ハハハ、それはたぶん無理でしょう。ですが、こんな問題を起こしたんですから、
ブルーノには、本気で清掃員をやってもらいましょう」
ディルク外務大臣とブルクハルト首相は行動で示せというマリの言葉通りに考え、
マリ局長にブルーノから、謝罪を申し入れるように指示をした。




