第109話 ドイツ外務省
9時50分になり、ドイツ外務省に到着した。マリは思いついたように
「そうだ!どうせなら、この人に案内してもらおう、イブこの人名前はなんていうの?」
「こいつか、ブルーノだ」
「ブルーノ、外務省を案内してくれる?」
ブルーノは何を言っているんだという顔で
「アホか、一般人が事前の許可なしに入れるわけないだろ」
マリ達はニヤニヤして、ブルーノを見た。
「許可なら、取っているわ」
「はあ~こんな子供に許可なんて出すマヌケは、ここにはいない、引率の先生がいれば、ある程度の見学はできるけどね」
「マヌケなやつ?」
「そうだ、ここは国の最高の機関なんだ。そんなマヌケがいたら、すぐにクビにされる」
「クビにされるんだ」
また、マリ達はニヤニヤした。
「じゃあ、あなたはそのマヌケよりも、すごいのかしら」
「今日、僕はクビにはなったが、今月いっぱいまでは、一応、ここの人間だからね、すごいに決まってるだろ」
「じゃあ、その人の前で今、ブルーノが言った言葉をそのまま、言ってよ。これから、許可を出した本人のところに行くから」
「あー、いいぞ、その代り、ここは子供が来るようなところじゃないんだ、僕が
話をしたら、すぐに帰るんだぞ」
「ふ~、私達は、どうしても、来てほしいと言われて来ただけだから、外務省のあなたが、そう言うんじゃ、その通りにするわ」
そう言って、マリ達は外務省の入り口の警備員に話しかけた。
「フランス治安情報局の局長マリ・トビシマが来たと、外務大臣に取り次いでくれるかしら」
警備員は事前に聞いていたよりも、とても若い少女に驚きながら
「局長、ドイツまで、お越しいただき、ご苦労様です。今、秘書官が、建物内ロビーまでお迎えに来るので、こちらの入館証を付けていただき、あちらから、お入りください。ロビーまで私がご案内します」
ブルーノは驚いた様子でそこで棒立ちにになり、マリやイブ、ユウキ、カミーユはブルーノの顔を笑い、見ながら、建物へ向かって行った。
建物に入ると秘書官があわてた様子で走ってきた。
「すみません。お迎えもせずに、まさか歩いてお越しになるとは思っていなかったので」
「いいえ、こちらの外務省職員のブルーノが同行してくれましたので」
「ブルーノ?ああ、大問題を起こして、今日、解雇通告をされたブルーノか」
マリは興味津々で、
「大問題ですか?」
「いえ、省内のことですから、局長にお話しするようなことではありません。ブルーノ、もういいぞ、お前は、ここには、もう来るなと言われているだろ」
ブルーノはビクッとして
「すみません。帰ります」
そう言った時にイブが
「おい、ブルーノ、許可を出したマヌケに何か言うことがあるんだろ。このまま同行しろ」
マリも
「秘書官、ブルーノはこのまま、同行させます。外務大臣に言いたいことがあるようなので、よろしいですか?」
「局長がそう、おっしゃるなら、もちろん、かまいませんよ」
「よかったね。ブルーノ、ドイツ連邦共和国の外務大臣に言いたいことが言えそうで」
マリは、またニヤニヤしてブルーノを見た。ブルーノは軽々しい発言をして、何やら、とんでもないことに巻き込まれてしまったと思った。
そして、高官のみ使用が許される、応接用の部屋に案内された、その部屋の外には、外務省の高官たちが10人ほどずらりと並び、待機しており、マリ達を出迎えた。
「フロイト ミッヒ マリ・トビシマ、遠くから、ドイツまで来ていただき、ありがとうございます。
ご協力感謝します」
ブルーノは自分が直接、会うこともできない、高官達がせいぞろいしているのに驚き、
目をパチパチさせた。しかも、こんな少年・少女にその高官が頭を下げて歓迎するなんて、
とても異様に思えた。
「局長、こちらの部屋で大臣がお待ちです」
大きな扉が開き、そこに白髪の男性が立っていた。
「フロイト ミッヒ マリ、お会いできて、光栄です」
「こちらこそ光栄です。ディルク外務大臣、わが、治安情報局の局長補佐のユウキとイブです」
「大臣、お会いできて光栄です」
「こちらこそ」
「それと、実行部隊隊長、フランス軍カミーユ大尉です」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
大臣はもう一人、すこし離れて立っているドイツ人のような男を見て
「そちらは誰ですか?」
「そちらですか」
マリ達はニヤニヤして
「ここで働いているブルーノです。なにか、外務大臣にどうしても言いたいことがあるというので、
連れてきました。しかも、我々に自分が大臣と話したら、すぐに帰れと怒鳴られました」
「なに~、ウチの職員があなたにそんなことを!」
ディルク外務大臣はブルーノを睨みつけた。
「立場をわきまえろ、ブルーノとやら、こちらは今、世界で、最も重要な方達で、首相からも、くれぐれも、失礼なことをしないように、厳しく指示がきているというのに、ふざけたことを言うんじゃない!」
ブルーノはたじたじになった。マリはその様子を見て
「ほら、ブルーノ、言いたいことがあったんでしょ。思い切り言っていいのよ」
ブルーノは大臣を目の前に何も言えなくなっていた。
「マリ、また、こいつのだんまりが始まったよ。肝心なところで、まともな話もできないなんて、所詮、お前は無能だったということだ。お前の上司の言う通り、退職してさっさと、おうちに帰ったほうがいいな。ハハハ」
イブは思い切り、バカにした。
「ブルーノ、何か、私に言いたいことでもあるのか、ないなら、すぐに出てけ。何も話すこともできないやつが、治安情報局の方達の貴重な時間を無駄にするわけにいかない」
マリはため息をついて
「ブルーノ、ここで何も言わないで出ていけば、あなたには、もう一生チャンスなんか訪れないわよ。負け犬でいいなら、すぐに出て行って」
ブルーノはこんな少女にここまで言われたことが悔しくて、手を震わせながら、
「大臣、わたくしは、この方達の素性を全く知らず、大変失礼なことをしました。
すみませんでした。
本日、上司に身に覚えのないミスを押し付けられて、一方的にここを解雇されました。
私は、身の潔白を証明するために、その上司とここ外務省を告訴いたします。
これから、マスコミやら、裁判などで騒がしくなりますが、私は何も悪いことはしておりませんので、
そのことをご報告させていただきます」
ディルク外務大臣はこんなところで何を言っているんだという顔で
「わざわざ私に言わなくてもそうしたければ、そうするがいい、用が済んだんだろ、もう出てけ」
「はい、そうさせていただきます」
その様子を見て、マリはニコッと笑った。
「ブルーノ、あなたが言いたいことを言ったから、我々はこれで引き上げるわ、
外務省に所属しているあなたが、自分が話をしたら、すぐに帰れと言ったんですから、
これから、あなたの責任で外務大臣や首相にきちんと説明するのね」
ブルーノは驚いた顔で
「いえ、さっきまでは、あなた方のことを知らなかったので、そう言ってしまっただけです。
大変失礼をしました。ですから、先ほどの件は水に流してください」
マリはギロリとブルーノを見て
「ブルーノ、あなたは自分の事だけしか考えず、どんな相手に対しても礼節を忘れず、謙虚にしていれば、こんなことには、ならなかったわ。この件はあなたの裁判なんて、とても小さいことよ。
今回のことはこの国だけでなく、アメリカ、イギリス、ロシア、フランスなどの主要国を
巻き込んだ国際問題になるわよ。あなたは、自分だけの小さい世界のものさしで考えているから、
こうなったのよ」
ブルーノの顔から、血の気が引いてきた。
「さあ、みんなフランスに帰りましょう」
ユウキ、イブ、カミーユもびっくりした様子で
「マリ、本当に帰るのかい、外務大臣と会ったばかりなのに」
「そうよ。私だって、ウチの局の人間が他の人に約束をしたなら、
その約束を責任者として実行するわ。
いくら、人数が多くても、同じ外務省の職員が我々にそう指示したんだから、
大臣だろうが、一番下の職員だろうが、同じ外務省の人間、それをきちんと管理できないのなら、
責任者としては失格よ」
「それはそうだろうけど」
「皆さま、すみません。ウチの者がお見苦しいところを見せてしまい、
うちの職員が大変失礼をしました、どうか、この件はお許し願えないでしょうか」
マリはまた、外務大臣をギロリと睨んで
「許しませんね。ブルーノがあなたや、首相と話して、今後、どのような対応を取るのか、
そしてブルーノ自身で考えて、再度、ご連絡ください」
そう言って、マリはスタスタ歩いて部屋から出て行った。
さすがのイブもマリの行動には驚きはしたが、恐らく、マリはブルーノを試しているんだと思った。
ユウキもマリを見て同じようなことを思った。
しかし、自分のことしか考えないブルーノがマリの機嫌を直せるだろうかと少し心配になった。
カミーユは相変わらずマリの行動が全く理解できなかった。




