素直になれないお嬢様
何でこんな状況に陥ってるの?
私は目の前でにっこりと妖しく微笑んだ男の顔を見返した。
目の前にいるのは幼馴染みの気弱な優しいだけの男の筈だった。
ジャンは小さな頃からいつも私の傍にいてくれたわ。
私は素直になれなくていつも心にもないことばかり言ってジャンを突き放してたわ。
遅いわ、いつも私を待たせるのね。
そんなことも出来ないの?
何?女々しい男って嫌いなのよね。
グレン様って素敵よね。兄弟なのになんでこんなにジャンと違うのかしら?
ジャンを傷つけることをわざと言ってジャンのことを試したの。
ねぇ?私のこと、好き?って。
私が何をしても許してくれる。
どこまで許してくれるのかしら?
ジャンだけは何があっても私のそばを離れないと信じてたわ。
なのに…
ジャンは私の従姉妹のオリヴィアと楽しそうに過ごしていたの。
オリヴィアの胸元に輝く空色のブローチ。
オリヴィアは私にこう言ったの。
この前ジャンが私に贈って下さったのよ、と。
久々に逢ったジャンは私が近づいて来たのに気づくと視線を逸らした。
いつものように屈託なく笑って私のところまで走り寄ってきてはくれなかった。
きっと今までの報いなのだ。
あんなに私をいつも気にかけてくれていたジャンをないがしろにした報い。
私への愛情を計る為にジャンを試した報い。
オリヴィアは可愛い。
私みたいに意地っぱりじゃないし、
私みたいに相手を試したりもしないし、
何より素直に好意を伝えられるのだ。
誰が見たって素直じゃない私なんかよりオリヴィアの方が良いに決まってるわ。
自分の気持ちを自覚した途端に失うなんて、
そんな風に後悔してももう遅いわね。
今日だけはふたりのことを笑ってお祝いしなくちゃね。
せめて今だけは弱い私になることを許してほしい…。
そんな風に思っていたのに何故にこんなことになっているのかしら?
尋ねてきたジャンに「おめでとう。オリヴィアと幸せにね」と告げるとものすごい力で壁に押しつけられ睨まれる。
ぞくりとした。
こんなジャンの顔、知らない。
痛い位の彼の視線は私を睨んでいたかと思うと、ジャンは何かを堪えるようにきゅっと眉根を寄せた。
「ルイーズ、本気でそんなことを思ってるの?」
綺麗な空色の瞳に映った私はそれでもまだ素直になれずにいる。
だって、私の本当の気持ちを言ったところでジャンが私を見てくれるとは限らない。
だって私はオリヴィアみたいに可愛くない。
だって私は、今までジャンにひどいことばかりしていたの。
真っ直ぐな視線を受け止めきれずに私が目を逸らすとジャンは私の顎を掴むと噛みつくように口付けた。
こんな男の人なジャンは知らない。
思わず抵抗するとジャンに抱きすくめられた。
ずっと男性にしては華奢だと思っていたジャンの身体は意外とがっしりとしていた。
「ルイーズ、愛してるんだ」
これは私の願いがもたらした幻聴なのかしら?
考えるよりも先に私の両の手はジャンの背中にまわっていた。
「ルイーズは僕のこと、好き?」
さっきまであんなに強引だったのに自信なさげに私の顔を覗き込む。
「嫌いじゃないわ」
やっぱり素直じゃないこんな言葉を紡いでしまう。
「もう一度ちゃんと僕の眼を見て言って」
これは私がジャンをどう思ってるのか伝えない限り離してくれそうにない。
「…すき」
聞こえるか聞こえないか位の声でそう告げるとジャンはとびきりの笑顔で笑った。
「僕もルイーズのことが大好きだよ!」
オリヴィアとのことは誤解だったとわかるのは翌日のことだった。
どうやら素直になれない私が素直になれるようにオリヴィアが仕組んだことらしい。
「だってルイーズったらいつまでも素直にならないんですもの。
上手くいったでしょ?」
全く、可愛い顔して何てことしてくれるのかしら?
赴くままに書き連ねたので誤字脱字があるかもしれません。
幼馴染みの恋が書きたかったのです。
誤字修正&少し加筆致しました。