第1章
それは、5年も前に遡る。
僕に降りかかった災難は二度と消えない。
……
高層ビル群にいつしかの朝日が照る。
窮屈そうに行き来する電車も、既に12分遅れでもう高校には、間に合わない。
ため息は、スマホの画面に吐いて、映る時刻はまた数字を足していく。
そして、僕は高校の最寄り駅に行くのをやめて、一つ前の駅で降りた。
その頃、僕の頭上100キロメートルでは、ある不具合が起きていた。
後にそれが、僕の運命に左右するとは、知る由もない。
改札を抜け駅舎から出た僕は、見慣れない街並みに好奇心が少し疼いた。
駅から5分歩いたところに、昭和感の漂う、レトロチックな純喫茶があった。
私はそれに目を引かれた。その時、その喫茶店の窓のうちから見える黄色い目にいつのまにか立ち止まっていた。
そうしているうちに、足が動き、くすんだ金のドアノブが怪しく光る暗い色の木のドアの前に立っていた。
その手をひねり、ドアを押すと、カランと乾いたベルの音がする。私はもう一歩、自分の意思で踏み出した。
初めて入ったその純喫茶の雰囲気は、今も思い出す。不思議と落ち着き、コーヒーのほのかな匂い。
カウンター席と4人席のテーブル席が4つで、純喫茶の主人は何食わぬ顔で、マグカップを綺麗に拭いていた。
パタンとドアが閉まる音と、もう一度ベルが鳴る音がして瞬時にどこに座ろうかと思った。
4人席のひとつにはご年配の方が3人座っており、カウンター席に、中央あたりに立つ主人から4席ほど右にズレたところに、パーカーを着てフードまで被っている若い女性が座っている。
なので私は、カウンター席の左端に座ることにした。
席に座りカバンを置く。落ち着いたところで、メニューを見ることにした。
カウンター席にメニュー表のようなものはなく、店内の右側の壁に手書きで、十数枚の短冊にメニューが貼ってあった。
一番手前の左から、「コーヒー」「モーニングセット」「トースト」「目玉焼き」「サンドウィッチA」「サンドウィッチB」など、メニュー名の下には値段も書かれているが、高校生の感覚からすると、コンビニで買った方が断然安く買える。と、思える程度の値段設定だった。
私は主人に声をかけた。「すみません、いいですか。」主人は拭き終わったカップを置き、「なんでしょうか。」と、返した。その声が思っている以上に年老いていて驚いた。
主人の顔をよく見てみると、口ひげが若干灰色がかっており、目元もシワがよっていた。
「モーニングセットのAをひとついいですか。」私はそう続けた。
主人は簡単に、はい。と、答えて奥にある厨房らしきところへ向かっていった。