光の季節/ある朝
「光の季節」
それは初夏の雨
霧の地平線
芝生の緑が安らぐ
その声を聞かせて
それは初夏の雲
自転車で坂を下る
遠い国、
昼下がりの幻影を駆け抜けていく
この季節
明日や昨日に惑わされることもなく
今を謳歌するこの季節
見上げれば無限の光
君のくれたようなやさしい光
私の心にありあまるほどの
光
素直になりたい季節
素直にはなりたくないこの季節
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「ある朝」
ある朝
水槽の中で金魚が死んでいた
白いお腹を上にぷかぷか浮いていた
初めてなくした小さな命をそっと庭に埋めて
たんぽぽの花を供えた
水に返してあげたほうがいいのかなと考えながら
ある昼
道脇で小さな黒猫が死んでいた
昨日撫でられていた猫は
皆に見て見ぬふりをされた
黒いふわふわの毛が別れの挨拶をしていた
その日の暮れには消えていた
ある夜
ずっと使っていた腕時計が死んだ
針が52に引き留められたまま
先へ進もうともがいていた
永遠の夜を刻んでいた
そのままどこかになくしてしまった
あの金魚と猫と時計のことを
ふと思い出すとき
僕はたいてい
死んだ魚のような目をしている