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俺は《こいつ》じゃ無いけど、それでも良い……え?ダメ?

作者: まにぃ

目を覚ますと、自分が自分では無くなっていた……。

そう言った想像を、誰もが一度はした事が有る筈。

これは、自らが望んでも居ないのに。

そんな状況に置かれてしまった、或る男の話です。

「早いよねー、もう入学式なんて。」

「そうだな。ついこの間、卒業式をったと思ったら……。」

「また同じ学校だし、ここまで一緒だと凄いよね。」

「運命共同体、ってか?」

「それを言うなら、〔腐れ縁〕でしょ?」

「そうとも言うな。」

「とにかく、高校に入ってからも宜しくね。」

「ああ。」


 ……何だ?

 何だ、この状況は?

 俺の前を、親し気に話す少年少女が歩いている。

 どうやら2人は、〔こいつ〕の幼馴染らしい。

 朝、こいつの家に。

 揃って迎えに来てた位だからな、相当仲が良いんだろう。

 えっ?

 どうしてそんなに他人ひと事なのかって?

 当然だ、文字通り〔他人〕なんだから。

 何せ、俺は……。




 残業時間を終え、真夜中過ぎの帰り道。

 後ろからいきなり、背中を刺された。

 全身に痛みが走ったが、そいつを何とか取り押さえようと。

 後ろを振り返った、そこを。

 ガツッとまた刺され、のど元がパックリといった。

 口から洩れ出す血、それを気にしている暇も無く。

 身体をめった刺しにされ、持っていたバッグを奪われた。

 道路へ倒れる間際に、犯人の顔をチラッと見たが。

 不気味にニヤニヤと笑っていた、あれは正常な思考の持ち主では無い。

 そう感じた途端、フッと意識が途切れた。




 次の瞬間、バッと目の前が明るくなって。

 俺は、とある部屋の中で立っていた。

 痛みは!怪我は!

 確かめようと、自分の身体を舐め回す様に見ると。

 俺が俺じゃ無くなっているのに気付いた。

 明らかに他人の部屋、それも相当年齢が低い。

 縦長の鏡が、壁に立て掛けてあったので。

 そーっと覗いてみると、自分の姿に愕然とした。

 何処かの制服らしい、ブレザーらしき物を羽織って。

 首にネクタイを締めている。

 左胸にほどこされた刺繍は……学校のエンブレムか?

 分からん、全く分からん。

 状況が今一掴めないまま、オロオロしていた時。

 部屋のドアをいきなり開けて、入って来る者が居た。


「お兄ちゃん!みんなもう……って!準備が出来てるんなら、さっさと降りて来てよね!」


 何故かプンスカ怒っている少女、こいつの妹か?

 バタンとドアを閉めて、トントントンと階段らしき場所を降りて行く。

 改めて、部屋の中を観察すると。

 幾つかの事が分かって来た。

 この身体の持ち主は、今日から高校生。

 入学式へ遅れまいと、早起きしたらしい。

 かばんや机の上などは、綺麗に整っていた。

 今日を楽しみにしていたのが、ひしひしと伝わって来る。

 でも悪いな、それは叶えられそうに無い。

 どうしてこうなったか、俺自身にも分からないのだから。




 妹から怒られて、十数分後。

 俺はやっと階段を下りた。

 でも真っ直ぐ、玄関へは向かわない。

 家の間取りを確認する必要が有った。

 トイレ、キッチン、居間、各人の部屋。

 それ等を一通り把握した後、玄関へ向かう。

 ええと、こいつの靴はどれだ?

 片っ端から履いてみる、その様子に『おかしい』と思ったのか。

 妹が、『はい、これ』とピカピカの革靴を差し出して来た。


「さっさと履いて、とっとと出る!」


 靴を履いている最中に、背中をドンと押され。

 俺は、玄関から放り出された。

 家の外には、近寄り難い位の美形な少年少女が。

 今や遅しと待ち構えていた。

 こいつを見た途端、少年が。


「今日は気合が入ってるんじゃ無かったのか?随分と遅かったぞ?」


 ご、ごめん。

 小声で謝る俺、ついいつもの癖が出てしまった。

 そんな事を気にする素振りを見せず、少女は。


「遅れちゃうから、説教は歩きながらにしよ?ねっ?」

「そうだな。このままだとギリギリだもんな。」


 そして俺に向かって、『あそこまで走るぞ!』と叫んだ後。

 少年は駆けて行く、続いて少女も。

 俺には、何が何だか。

 仕方無くそのまま、2人の後を付いて行く事にした。




 歩きながら、キョロキョロ辺りを見回して。

 この世界に関する事柄を、出来るだけ集めた。

 電車に乗って移動し、バスへと乗り換え。

 その間に得た情報を、総合して考えると。

 俺が居た世界とこの世界は、余り違いの無い事が分かった。

 言語、法律、国と地域、社会の仕組みなど。

 ただ、決定的に違う点も在った。

 政治家や芸能人の名前、漫画・アニメ・ゲーム等の内容。

 曲名や文学作品等は、俺の世界とは明らかに異なっていた。

 この辺が変わっていても、生活に支障の無いのが幸いだ。

 それにしてもあの2人、やたらと仲が良いな。

 付き合ってるのか?いや、深く立ち入らないでおこう。

 面倒事は苦手だしな。

 〔こいつ〕も相当、モテそうな顔をしてるしな。

 そう思いながら俺は、服をポンと叩く。

 そして、こんな事も思う。

 色恋沙汰も色々経験してるんだろうな、不細工な俺とは正反対だ。

 そのせいで、これまでの人生でどれだけ苦労して来たか。

 やっと掴んだ、係長の地位が……。

 そう思うと、ここに居るのが恥ずかしくなった。

 そこでふと、頭に考えが浮かぶ。

 俺がこの身体に入っていると言う事は、こいつの魂はどうなったんだ?

 元の俺の身体に入ったのか?それとも辺りを漂ってるのか?

 全く感じ取れない、こいつに霊感は無さそうだ。

 でも相当、運動神経は良いらしい。

 前の俺は、ハアハア言いながら通勤していたのに。

 この身体は全く疲れていない、寧ろきびきびと歩いている。

 悩みながら、2人の後に続く俺。

 何故こんな状況におちいったのか、必死に考えていた。




 そして何と無く、とある高校に到着。

 結構近代的な校舎だな、俺が通っていた頃とは違う。

 設備もさぞや、良い物が揃っているのだろう。

 俺には全然、関係無いけどな。

 校門をくぐって、やや進んだ所に。

 クラス分けの紙が貼ってあった。

 ええと、こいつの名前は……。

 ブレザーの内ポケットに入っていた生徒手帳を見ながら、懸命に探した。

 その時、2人からこんな声が聞こえて来た。


「あー、あいつだけ別かあ。」

「残念だけど、しょうが無いわよ。」

「ほんっと、お前とはトコトン縁が有りそうだな。」

めてよね、そんな誤解を生む言い方。」


 ほう、あの2人とこいつは別クラスか。

 まあ、その方が良いかもな。

 後々の事を考えると。

 俺はこの時点で、このままこいつとして生活して行けるとは思えなかった。

 一晩眠って、目が覚めると。

 こいつじゃ無くなっている気がした。

 だからだろうか、周りの人間関係がドライになっても良い様に思えた。

 済まんな、この身体の持ち主よ。

 俺はそんなに人当たりが良い奴じゃ無いんだ、友達が居なくても我慢してくれよ。

 再びこの身体へ戻って来た時、こいつが不便無く過ごせる様に立ち回ろう。

 そんな考えは毛頭無かった。

 自分本位で過ごさせて貰う、この時に俺はそう決めた。




 2人と別れた後、校内をウロウロして。

 こいつのクラスであろう教室へと入る。

 すると複数の女子が、急に騒ぎ出した。

 それに気付いたのか、男が何人か近寄って来て。

 こいつに気安く、声を掛けて来る。


「おっ!サッカーの天才児じゃないか!」

「同じクラスとは、光栄だねえ。」

「これから、宜しくな!」


 人目を気にしながら、相手の顔色をうかがいながら。

 ビクビク生きてきた俺には、こいつ等の心の中が容易に分かった。

 仲良くする気は全く無い、友人である事を表面上取り繕っているだけ。

 しかしそれで、こいつの部屋に張ってあったポスターの意味が分かった。

 憧れのサッカー選手だったのか、勢いで破らなくて良かった。

 俺は、ねたそねみの塊。

 あんなのは、鬱陶しいだけ。

 かと言って、漫画やアニメ好きと言う訳でも無い。

 そんな趣味が楽しめる心の余裕すら、手元から取り上げられていた毎日。

 今居るこの世界は、心が追い詰められていないだけで儲け物だった。

 それからは。

 何と無く入学式を終え、何と無く自己紹介をし。

 何と無く授業を終え、何と無く放課後を迎えた。

 クラスの奴の何人かに、スマホの番号やらを尋ねられたが。

『持っていないから』と、全て断った。

 〔自分の本来の世界と違う〕、朝方そう気付いた時

 この世界にもネットが有る様だったので、スマホで検索しようとしたが。

 ロックが掛かっていて、使えなかった。

 PCも置いていない上に、早く下りて来る様妹が催促するので。

 これ以上の詮索は無駄だと思い、ベッドの上にスマホは放り投げて来た。

 だから正しくは、『使いたくても使えないので置いて来た』。

 帰ったら、生徒手帳に記入されている生年月日でも試してみるか。

 それ位にしか考えていなかった。




 次の日、同じ様に学校へ登校。

 上辺だけの友達が、懲りずにり寄って来る。

 こっちはそれ所じゃ無いっての、そう思いながら。

 周りに愛想を振りまいていると。

 とある女子が、ジーッとこちらをにらんでいる。

 何か不味まずったか?いや、あいつには話し掛けても居ないよな?

 どうしてあんなに睨んで来るんだ?

 良く分からないまま、その日は帰ったのだが。

 毎日毎日、授業中も休み時間も。

 ジロッと睨んで来るので、流石にたまらなくなり。

 その女子を教室から連れ出した。

 男連中からは、『ヒューヒュー』とか揶揄からかいの言葉が飛んで来たが。

 敢えて無視、気にする価値も無い。

 それよりも、こっちだ。

 無理やり引っ張って来た割には、素直に従っている女子。

 良く見ると、この子もかなりの美人だな。

 顔が整ってると言うか、〔可愛い〕よりも〔綺麗〕の方が似合っていると言うか。

 俺の好みの髪型である、サラリとしたロングヘアだったのが。

 ひょっとしたら、影響していたのかも知れない。

 屋上へと続く階段の踊り場まで来ると、俺は手を放し。

 その女子と真正面から向かい合って、思い切って尋ねた。

 俺の事、ジロジロ見るのは止めてくれないか?


「どうして?」


 どうしてって、決まってるだろう?

 気持ち悪いからだよ。


「あなたに直接、危害を加えた訳でも無いでしょ?」


 間接的に加えるのは良いのかよ。

 それは単なる屁理屈だぞ?

 良いな、もう止めろよ。

 そこまで忠告した後、その場を離れようとした時。

 女子が発した言葉に、心臓が止まりそうな思いがした。

 それは。




「【あんた】、この世界の住人じゃ無いでしょ?」




 な、何を言い出すんだよ。

 おかしな事を口にするもんじゃ無い。


「動揺してるわね?分かるわよ、その気持ち。」


 だから、何を言って……。


「私もなのよ。」


 へっ?


「私も気付いたら、この身体になってたの。中身は別人、クラスのみんなにとっては残念だろうけどね。」




 その後、その女子とは詳しく話し合った。

 俺は驚いた、同じ境遇の奴が居るなんて。

 一通り話を聞いても、信じられなかった。

 そいつによると。

 階段から誰かに突き落とされ、気を失い。

 目を覚ました時には、この身体になっていたらしい。

 どうして同類なのかが分かったのか、尋ねてみると。


「明らかにあなたは、挙動不審だった。それに、ピンと来たの。同類ならではの直感って奴かしら。」


 随分と曖昧な根拠だな。

 で?これからどうしようってんだ?


「当然。元の世界に戻る方法を探すのよ。」


 探してどうする?

 お前さんは生きてる可能性が有るから良いけど、俺は確実に死んでるんだぞ?

 そう言ったんだけど、そいつは納得していないらしい。

 苦々しい表情を浮かべながら、こう言った。


「どうしてあんな事をしたのか。問い詰めないと、気が済まないのよ。」


 犯人を知ってるのか!


「ええ、良ーくね。何せ、〔フィアンセ〕だったんだから。」


 えぇーっ、結構真面まともな人生を送ってるじゃないか。

 戻りたくないと思う俺とは、随分と差が有るな。


「そうでも無いわよ。私には私なりの苦労って物が有るの。」


 で?そいつに復讐でもするつもりか?

 無駄だ無駄、止めとけ。


「あんたは、戻りたくないの?」


 どうやら、こいつは。

 この身体の持ち主を指す時は〔あなた〕、内面の俺を指す時は〔あんた〕と。

 使い分けるつもりらしい。

 まあ意味が通れば、俺は別に気にしないけど。

 それよりも、こいつの質問に関しての答えだ。

 本来の俺は不細工だし、勤めてる会社はブラックだし。

 戻りたいとは思わない。

 それに一度死んだ身だからな、天涯孤独の身だったから悲しむ奴も居ないし。

 ただ、この身体の持ち主には申し訳無く思うけど。

 これから楽しい日々が待っていただろうに、でもそれだけだ。

 何時いつ、この世界から。

 俺の魂が弾かれるか分からない以上、あれこれ動き回っても無意味に思えるだけさ。

 だから。

 元居た世界に帰りたいなら、お前1人で遣ってくれ。

 邪魔をする気は無いからさ、じゃあな。

 そう告げて、立ち去ろうとしたけど。

 どうしてか、足が動かない。

 何か別の意思に支配されているかの様に、身動き1つ取れない。


「どうしたの?協力しないんじゃ無かったの?」


 動けないんだ!どうしても!


「それは誰かさんか、『あいつに手を貸してやれ』って言ってるのよ。」


 そんな!筈が!無いっ!

 くそっ!動けっ!動けったら!

 顔を真っ赤にして踏ん張るも、びくともしない。

 俺にさとす様に、その女子は言った。


「観念したら?にっちもさっちも行かないでしょうに。」


 本当に!お前に協力すると言ったら!約束したら!


「動ける様になる、かもね。」


 くっそ、無責任な事言いやがって!

 分かった、分かったよ!

 手伝ってやる!それで良いだろ!

 こんな事をして来る奴、誰かは知んないけどよぉ!

 そう叫んだ途端、ボンッと勢い付いて女子の方へ。

 慌てて俺は、両手を前に出した。

 それが『ドスッ!』と、壁ドン状態になり。

 真っ赤だった俺の顔が、更に真っ赤になった。

 この様子を、遠くから見ていたらしい。

『キャーッ!』と黄色い歓声が、こちらへ飛んで来た。

 焦る俺、対してこいつは。


「大丈夫。ここでの会話は、あいつ等には聞かれてないわよ。」


 いや、そうじゃ無くてだな!

 どう考えても、誤解を生むシチュエーションだろ!


「だったら尚更、都合が良いわ。」


 はぁ?

 何を言い出すんだ、お前は!


「カップルとして、周りに認めさせといた方が。2人で動くのに好都合って事よ。」


 結構頭が回るんだな……って!

 さり気無く、変な事を言うんじゃない!


「協力し合うんでしょ?私達。」


 くっ……そう来るか……。


「それよりあんた、女慣れして無いでしょ。これから大丈夫?」


 お前が男慣れし過ぎてるんだよ!

 どう言う人生を送って来たんだ、全く!

 かなりの剣幕で怒った筈なのに、動揺する素振りを見せず。

 ニコッと笑いながら、その女子は俺に言った。


「これから宜しくね、相棒。」




 こうして俺は、この得体の知れない女子と共に。

 魂だけ迷い込んだこの世界から、脱出する方法を探して。

 右往左往する日々を送る事となった。

 それが最終的には、とんでもない青春劇となるのだが。

 機会が有れば、その時に語るとしようか。

 それでは……。

いかがだったでしょうか?

え?これって〔異世界転移〕じゃないかって?

そうかも知れませんし、そうじゃ無いかも知れません。

どちらなのかは、今後主人公達が解明してくれる事でしょう。

彼等が真実をもたらしてくれる事に期待して、ひとますは終わりです。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

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