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流れる雲  作者: あさぬまゆくや
1/1

ある夜に

「忘れ物、忘れ物」


中学生位の少女が足元も覚束ないだろう薄暗い校舎の階段を駆け上がっていく。


一段上がる毎に少女のポニーテールが洋服の襟元を軽快に叩いている。


三階まで上がった時に少女はどこか違和感を覚えた。


辺りを見回した彼女は直ぐにその違和感の正体に気づいた。


少女が見据える三階の突き当りには理科室があるのだが、


ぼんやりと明かりが点いているのが少し離れた少女の場所からでも微かに見えたからだった。


いつもならこんな遅くまで教師は残っていない事を知っている少女には


――もしかして誰か消し忘れたのかな


という考えが頭をかすめ、本来の目的も忘れ、


自分の教室も通り過ぎ理科室の前にいた。


もし先生が残っていたら、


こんな遅くに学校にいることを咎められるかもしれないという考えもよぎった為、


そのまま中に入ることは止めた。


少女が少し開いたドアの隙間から中を窺おうとした時、


中からガチャガチャと何かガラス製品がぶつかり合う様な音が中から聞こえてくる。


消し忘れではなかったことに少女はやや安堵の表情を浮かべたが、


では中にいるのは誰なのかを確かめてみたくもなり、少女はドアの隙間へと顔を近づけた。


暗い廊下を歩いてきた事もあり目が慣れるまで何が行われているか少女は分からなかったが、


教室の明るさに目が慣れた瞬間少女は何が行われているか理解し、


同時に体中の血の気が引きその場から立ち去ろうとした。


――あの人が、何であんなことを?


そろりそろりと後退りしていた少女は気の動転からか、つまずきよろける。


“カタン”


少女のスカートのポケットからボールペンが転がり落ちる。


と同時に理科室の中からこちらへ走って来る足音が聞こえた。


――まずい


と思った少女は直ぐに体勢を整えると一目散に今上がってきた中央階段の方へと走った。


振り返らずとも後ろから誰かが追ってきている事は少女には足音で認識できる。


少女は今までの人生で一番早く駆けた。


階段を駆け下りる少女の目には既に一階と二階の間の踊り場が見えている。


――一階に着いたら直ぐ裏口から出て自転車で逃げよう


少女は背後に迫る足音に恐怖を感じながらもそう考えていた。


踊り場を曲がり二段程下りたとき、


少女は体が宙に浮いた様な不思議な感覚に包まれた。


――踏み外した?いや、違う。あの人が背中を押した?いや、危な……


次の瞬間少女は前のめりに宙に浮きそのまま落下し階段で強く頭を打ち、


重力の働きも手伝い加速を増しながら転がり落ちていく。


一階で動かなくなった少女を見下ろしながら何者かは爪を噛み、溜め息を一つついた。


何者かが見上げた窓の外には、綺麗な空が広がっていた。

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