桜の木の下
「桜の木の下には死体が埋まっている」
刑場跡や戦没者の側に桜の木を植えたことから出た言葉らしい。
小学校には必ずと言っていいほど、桜の木がある。だからといって死体が埋まっているわけではない。わかってはいるが、好奇心が疼く。
六年生の千早と基樹は、好奇心に駆られるまま桜の木の下を掘ってみることにした。しかし、当然やっていいことではない。二人は夜中に行うことにした。
そっと夜中に家を抜け出し、小学校へと向かう。さすがに人も歩いていない。終電も出た今、人気がないのは当然だ。千早はドキドキしながら小学校へ向かった。すると、前から男が歩いて来た。こんな時間に……?千早は不思議に思ったが、自分も外にいるのだ。他の人がいても変ではない。
千早と男がすれ違う時だった。
「桜の木の下だよ」
確かに男はそう呟いた。ぞくりとする声。千早が振り返ると、男はいなかった。
千早は不審に思ったが、基樹と待ち合わせの桜の下の下へ向かった。だが、待ち合わせ時間が過ぎても基樹は来なかった。
翌日、基樹は休みだった。千早は基樹の家に行ってみた。するとお母さんが玄関先で、基樹は風邪だから移すといけない、と言われて帰るしかなかった。
そして、翌日。また基樹は休みだった。その翌日も。そうして一月がたった。
ある日、男が千早を訪ねて来た。刑事だという。基樹は誘拐された可能性があるらしい。刑事が千早を訪ねて来たのには訳があった。一月前の基樹の日記に、夜中千早と会うことが書かれていたのだ。千早は二人の計画を話した。
翌日、学校は臨時休校になった。
三日後、全校集会が行われた。そこで言われたのは、基樹が死んだこと。遺体が小学校で発見されたこと。これからしばらくは登下校は集団で行うことだった。
基樹が死んだ?遺体が小学校から発見?まさか……。
千早は小学校の桜の木の下へとやって来た。基樹と待ち合わせの場所。明らかに掘り返した跡。
あの日すれ違った男の言葉。
「桜の木の下には死体が埋まっている」
この言葉は本当だった。