列車
「発車しまーす」
車掌のかけ声でゆっくりと列車がホームから出ていく。うとうととしていた私はその声で目を覚ました。4人用のボックス席に私は一人で座っていた。
ここはどこだろう。私は何故列車に乗っているのだろう。
ふと窓の外を見ると、血だらけの人と目があった。
「交通事故死者、通過しまーす」
とぼけたようなアナウンス。私は次々と列車の外を飛んでいく人たちを眺めた。
ジリリリリ
目覚まし時計が鳴った。
「朝? なんか変な夢を見たような……」
私は朝の支度を始めた。
「発車しまーす」
明るい声とともに列車がホームから滑り出す。4人用のボックス席に一人で座る私。
「戦争死者、通過しまーす」
私は恐る恐る窓を見た。すると血まみれの人々が列車の横を飛ぶように通過していく。私と目を合わせながら。
ジリリリリ
「夢……?」
私は汗をかいていた。顎から滴る感じが気持ち悪い。
「発車しまーす」
軽い調子でのアナウンス。列車がスーッと走り出す。私はまたしてもボックス席のシートに座っていた。心臓が嫌な音をたてる。
「死刑執行死者通過しまーす」
また窓の横を通りすぎて行く人たち。たまに、私に向かってぶつぶつと何かを言っている。
ジリリリリ
「何、今の。夢なの……?」
「発車しまーす」
私はまた列車に乗っていた。のろのろと顔を上げる。4人が座れるボックスシート。そこに座っている私。
(何? 何なの?)
私は心の中で思った。
「死者が乗っていまーす」
軽い口調のアナウンス。
(え? 今何て言った?)
列車は静かに目的地である、死者の国へと到着した。