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さあ

 返して……



 智史は社会人一年目。会社にも恵まれ、大変だが楽しい日々を過ごしていた。

 だが、どこからともなく頭の中に聞こえてくる『声』。いつからかはわからない。物心つく頃には聞こえていた。だから智史も気にせずにいた。「幻聴」そこまで深刻には考えず生活をしていた。

 段々とその『声』は大きくなってきた。そして夜寝ている時にその『声』は大きくなる。女の『声』。その『声』で飛び起きることも多くなってきた。智史の肌は汗でべっとりとし、息は荒い。


「ただの夢だ」


 智史がそう思えば思うほど『声』は大きくなり、夜中に起きることも多くなってきた。さすがに寝不足で辛い智史。


「加藤くん、顔色悪いわよ。今日は帰ったら?」

「いえ、大丈夫です」


 会社の先輩に心配されながらも仕事を続けていた智史。その時『声』が聞こえた。頭の中に響くように。


「わあ!」

「加藤!」

「加藤くん!?」


 智史は倒れていた。



「こっちだぞ。そっと、そっと」

「智史、本当に行くのかよ」

「何だよ怖いのか」

「そ、そんな訳ないだろ!」

 それは小学生の時の肝試し。友達と一緒にやって来たのは墓地。夜に墓地を通り抜けようというものだった。好奇心半分怖さ半分。智史達は墓地を通り抜けた。通り抜ける時に智史は小石を拾った。なぜだかとても惹かれたからだ。

「智史!」

「ああ、今行く」

 智史は小石をポケットへしまった。



 智史は目を覚ました。倒れて病院へ運ばれていたらしい。


「加藤、大丈夫か?」


 上司だった。


「……大丈夫です」

「とにかく今日は帰りなさい」

「……はい」


 智史は帰る道すがら考えていた。さっきの夢は自分が子供の頃のこと。何故今思い出したのか。

 智史はふと思った。あの小石。あれはどうなったのだろう。いつも聞こえる『声』に関係しているかもしれない。『返して』というあの『声』。智史は家に帰ると小石を探し始めた。小石は引き出しの奥へ入っていた。まさかという思い。智史は子供の頃に行った墓地へと向かった。


「確かこの辺り……」


 智史は小石をポケットから取り出した。


『返して!!』


 智史の頭の中に響きわたる『声』。思わず小石を落としてしまった。智史がそれを拾おうとした時だった。

 ボコッ

 地中から蔦のようなものが出て智史の指に絡まった。


「い、痛い……」


 蔦は智史の右人差し指を締め付けた。そして食い込んでいく。指の感覚がなくなった時、智史の右人差し指は千切れていた。


「ぎゃあああ!」


 のたうち回る智史。


『私の指』


 女の『声』。智史の前には一人の女がいた。女が持っていたのは智史が子供の頃に持ち帰った小石と智史の指。


『私の指、返してもらったわ。でもあなたの指は返さない。ずっと待ち続けていたのだもの』


 右人差し指がなくなった智史の薄れ行く記憶の中で女の『声』が響いた……。


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