美容院
晴子は探していた。美容院を。その日は仕事で疲れていて、頭まで洗う余裕がなかったからだ。
(早く家に帰ってシャワーだけ浴びて寝たいわ)
晴子はそれで美容院を探していた。しかし、美容院は大体7時まで。晴子が美容院を探していたのは7時30分。
晴子は美容院を探すのも疲れてしまった。でもその日は汗をかいたので、どうしてもシャンプーをしたかったのだ。
(もう諦めようかしら……)
と晴子が思った時、晴子がいた通りの先が明るかった。もしや美容院かと行ってみると、その明るいところは美容院だった。
晴子は祈るような思いで、扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
「あの、シャンプーだけお願いしたいのですが……」
「はい、どうぞ」
(ああ、ようやく美容院をみつけたらわ!)
「どこの美容院も7時までで困っていたんです」
「ああ、うちは8時までなんですよ」
「じゃあ、ぎりぎりだったんですね」
「ええ、そうなりますね。お客さまはどうしてこの店を見つけられたのですか?」
「え? 明かりが漏れていたので……」
「……そうですか」
(なんだろう、この違和感)
晴子は何となくそう思ったが、とりあえずシャンプーをしてもらえれば構わなかったので、案内されたシャンプー台へ座った。
シャンプー台が倒され、シャンプーが始まった。そして、シャンプーをする時に顔にふわりと紙をかけられた。
(ああ、気持ちがいい)
晴子は恍惚として目を閉じた。
その時、明かりが少しずつなくなっていった。光は微かなものへと。
晴子はさすがにおかしいと思い、目を開けた。すると、店内は閉店かと思うような暗さだった。
「あの、明かりが……」
晴子が言うと、店員が答えた。
「どうかされましたか?」
(え? この声は私のシャンプーをしている人の声。どうして前から聞こえるの?)
ひらり
顔にかかっていた紙が落ちた。
すると、私のシャンプーをしている人が斜め前に立っていた。
(え? どういうこと?)
晴子はそっと後ろを見た。
(顔がない! 体も!)
「ひっ」
晴子は起き上がろうとしたが、しっかりと頭を掴まれて、起き上がることも出来ない。
「お客さま、どうされましたかあ」
晴子の顔の目の前に店員の顔があった。
「きゃあああ! シャンプーをやめて!」
ぴたりとシャンプーをしていた手が止まった。と、晴子のシャンプーをしていた手が、ふわりふわりと宙を舞って、店員の体についていく。
ぬめり
嫌な音がする。
晴子はシャンプー台から逃げるように美容院の外へ出た。
晴子が恐る恐る振り返ると、美容院は空き地となっていた。
(どういうこと!? 夢!?)
外は雨が降っていた。晴子の髪の毛は濡れている。これは雨? それとも……
(きっと夢だったんだわ)
晴子がそう思った時、空き地に晴子のバッグが落ちているのを見つけ、近づくと、お財布が開いていて、シャンプー代金がなくなっていた。晴子が呆然としていると、紙がふわりと晴子の目の前へ。
『ご来店ありがとうございました』
その紙は、晴子の顔に被せられたものだった。
「嫌ああ!」
晴子の叫びは闇にかき消されていった……。