切りたい
ザクッ ザクッ ザクッ
恵里佳が彼と付き合いだして、三ヶ月。彼の家へ食事を作りに行くことになった。
恵里佳は彼の家へ行くのは初めて。彼の家の近くの駅前で待ち合わせ。恵里佳は当然ドキドキとした心臓を押さえていた。
「恵里佳、待った?」
彼がやって来た。
「ううん。私も今来たところ」
嘘だ。恵里佳は一時間前には到着していた。でもそんなことは恥ずかしくて言えない。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
買い物は既に済ませてある。とりあえずはパスタにサラダの予定だ。
「ここだよ」
ほどなくして彼のアパートに着いた。
「お邪魔しまーす」
恵里佳はドキドキしながら彼の家へと入った。まずはランチ。恵里佳は買い物袋から食材を出した。すると彼が言った。
「冷蔵庫の中のものは使っていいよ」
「うん。わかった」
じゃあ、とりあえずは冷蔵庫チェック。冷蔵庫に入っていたのは、ひじきとソーセージ。
恵里佳は考えた。ソーセージは切ってカルボナーラに入れて、ひじきはサラダに淹れようと。
恵里佳の食事の支度が始まった。まずは下ごしらえ。パスタを茹でる前に、具を作らねば。恵里佳は冷蔵庫からソーセージを出した。
おかしい。ソーセージに毛が生えている。そしてソーセージは細長いが、片方の断面から骨のようなものが見えた。
人間の指だ。そして、ひじきだと思ったのは人の髪の毛。
「き、今日は帰るわ」
恵里佳はやっとのことで声を出した。
「どうして? そのソーセージが気に入らない? じゃあ、これで新鮮なのを作ろう」
彼がテーブルの上に出したのは裁断器。
「さあ、新しいソーセージを」
恵里佳は彼に捕まってしまった。男女の力の差をこんなにも感じたのはこれが初めてだ。恵里佳は手を裁断器の下に置かれた。手の上には鋭い刃が光っている。
「じゃあ、いくよ」
「止めて!」
ザクッ
恵里佳の人差し指、中指、薬指の第一関節が切れた。
恵里佳はもう声も出ない。
「次に君が来るときまで、冷凍しておくよ。ああ、髪の毛もね」
恵里佳の遠退く意識の中、彼の声が微かに聞こえた。