電車の中で
秋の風が爽やかに吹いている。朝は涼しくなった。桂子はいつも通りに会社へ向かうため電車に乗った。桂子の乗る電車は混んでいる。座れたことなどない。しかし他社線との乗換駅では大勢の人が降りる。その時に運が良ければ座れることもある。
今日は月曜日。何故かいつも月曜日は電車が混む。乗換駅についたが、座れるはずはないと桂子は思っていた。だが、四人掛けの椅子が一ヶ所ぽっかりと空いていた。桂子はそこに吸い寄せられるように座った。
ぎゅうぎゅうの車内は人もまばらになっていた。桂子も座れたことにほっとして本を出した。最近はスマホを操作する人が多い中、桂子は本を読むのが好きだった。
桂子が読んでいる本では、主人公の友達が死ぬ所だった。
「死ぬよ」
え? 今の声、どこから?
桂子は周りを見渡すが、右隣にはサラリーマン風の男、左隣には若い女性が座っているだけだ。
桂子は空耳だと思い、また本に目を落とした。
「死ぬんだよ、ほら」
背筋に走る悪寒。声は右隣の男性からだった。桂子は視線だけを右に動かした。すると男性はニイッと笑った後、すっと立って駅に降りていった。
桂子はその男の笑い顔が怖くて仕方なかったが、何故か思い出せない。たった今見たばかりなのに。
桂子は本を読む気力もなく、鞄に閉まった。
ふわり
左隣の女性が私にもたれかかってきた。どうしよう。でもそれほど重くもないし……。
桂子が左を見た時、その女性と目が合った。
起きてる!?
「死ぬの」
その女性は私にもたれかかったまま、眼球が出てきた。完全には出ない。ピンポン玉が半分出ているようだ。その女性はだんだんと冷たくなっていく。すると眼球が少しずつ垂れ下がっていく。
桂子は体が固まったまま動けない。何も考えられない。ただ、隣の女性が今死んだということだけ。
「大丈夫ですか?」
桂子は誰かに声をかけられた。桂子は気を失っていたらしい。救急隊が来ていたのだ。桂子は硬直していた。どこからか響く声。
「死ぬんだよ」
「きゃああああ!」
車内には桂子の叫び声が響いた。