てるてる坊主
てるてる坊主を十個作ると願いが叶う……誰が言った言葉だろう。ネットで調べても、そんなことは書いていない。一体誰が私に囁いたのだろう。
「いないんです!」
突如交番へ駆け込んできた女性がいた。
「落ち着いてください。どうしたんですか?」
「うちの子がいなくなったんです! ベビーカーに乗せていたのに!」
最近幼児誘拐事件が多発している。赤ん坊から小学生にいたるまで。だからといって死体が発見される訳でもなく、身代金の請求があるわけではない。まるで「神隠し」に合ったようだとマスコミは書き立てた。そしてまた被害者が出た。
この近辺で誘拐事件が起きていることから、近くに住む者ではないかとは捜査されているが、犯人の目星はついていない。
「いい子ね……さあこれを首に巻きましょうね」
祐子は優しく赤ん坊の首に紐を巻いていく。
「あう~」
赤ん坊は無邪気だ。そんな赤ん坊を祐子は抱き上げると、首に巻き付けた紐を家の梁へぶら下げた。
「あうっ、ぐっ」
赤ん坊はろくに喋ることもなく、首から頭を下へ垂らし大人しくなった。
「……いーち、にーい、さーん、しーい、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅーう……あとひとつ……」
祐子はショッピングセンターへやって来た。ここでは祐子の好きなものが多いのだ。
「どーれーにしーよーかーなー」
祐子は物色を始めた。小さい子の方が運びやすい。ベビーカーが置き去りになっているのを祐子は見つけた。母親は買い物に夢中になっているようだ。祐子はベビーカーへそっと近づくと、二歳くらいの子供をそっと抱き上げた。そのままショッピングセンターを去る祐子。
「どこ行くの?」
つたないながらもこどもは祐子に聞いてきた。
「……楽しい所よ」
祐子は自宅へ戻ると紐を子供の首へ巻いていく。
「これは?」
「……遊びよ。楽しい遊び」
祐子はその子供の首に紐をぎゅっと巻き付けた。
「く、苦しいよ」
「大丈夫。すぐに楽になるわ」
祐子は子供を家の梁にぶら下げた。
「ぐっ、ぐえっ」
子供の声が聞こえなくなるまで、祐子は子供の斜め下から見上げる。そして子供はだらりと力を失う。それを見て祐子は数え始めた。
「いーち、にーい、さーん、しーい、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅう」
祐子は満足げに梁にぶら下がっている、てるてる坊主を眺めた。
「これできっと願いが叶うのね」
ピンポーン
インターフォンが鳴った。
「金井署のものですが、ちょっとよろしいですか?」
ああ、来たのね!
祐子は躊躇いもせずに玄関の扉を開けた。
「こちら、工藤さんのお宅で……」
警察官は言葉を失った。家の梁に頭を垂れた首吊り死体があるのを見たのだ。
すぐに刑事が駆けつけてきた。
ああ、こんなにたくさんの人がうちへ……。
祐子は恍惚としていた。
祐子の願い、それは自宅へ人を招くことだった。十個のてるてる坊主を作って、願いが叶うのを待っていた。
今、願いは叶えられた。十個のてるてる坊主によって。