寒い
さむい……寒い……
博子は目が覚めた。何かの夢を見ていたようだが、思い出せない。まあ夢なんてそんなものだし、と博子は気にせずにいた。
そしてその夜、また博子は夢を見た。
寒い……寒い……寒い……!
「きゃあ!」
博子は飛び起きた。何故か背筋が寒くなるような夢だった。しかし博子はいつも通りの生活に、夢のことは忘れていた。
その夜、また博子は同じ夢を見た。
寒い……寒い……寒い……寒い……もっとこっちに……
何か黒いものが博子を捕まえようとする。
「いやあ!」
博子はまた飛び起きた。自分の息が荒い。ぜえぜえと息をしている。額には冷や汗がにじんでいる。
おかしい。こんなに同じ夢を見るなんて。自分は病気かもしれないと博子は思ったが、認めたくなかった。
博子は「夢占い」で有名な占い師を訪ねることにした。普段なら占いなんてと思ったが、あまりにもリアルな夢なのだ。
早速博子は、占い師を訪ねた。
その占い師は水晶珠を使う。博子が占い師の前に座った直後だった。
「お前さん、スキーに行きなさるね」
博子は驚いた。スキーは博子にとっては大事な趣味であり、冬になると休日の度に出掛けていたからだ。占い師は続けた。
「そこで子うさぎを板に引っ掛けたね」
その言葉にも博子は驚いた。博子はスキー場で立ち入り禁止の所に入ってしまい、うさぎをスキー板に引っ掛け、殺してしまったことがあった。その時は気が動転していて逃げ出してしまった。あれは子うさぎだったのだろうか。
「あ、あの、確かにうさぎを引っ掛けたことはあります。でもそれと夢が何の関係があるんですか?」
「そのうさぎの親が怒ってるのさ」
「あの、その話が本当だとして、どうすればいいんですか?」
占い師は水晶を見つめている。そして水晶を見つめながら呟いた。
「弔いをするこったね」
それはつまり、あのうさぎを探して埋めるということだろうか。でも、あれは先月の話だ。もう既にうさぎの骸などなくなっているだろう。しかし博子はこれ以上夢を見たくない一心で、スキー場に向かうことにした。
ちらちらと雪が舞うスキー場の立ち入り禁止区域に、博子はそっと入っていった。
確かこのあたり……
と博子が思った瞬間だった。博子は足を滑らせて転落していった。そして突き出ていた氷の先に、博子の胸が突き刺さる。
……!
それは博子がうさぎの胸を貫いたのと同じ死に方だった。