救急車
苦しい。苦しい。胸が痛い!そうだ!救急車!理子は震える手でスマホの番号を押した。119。
トゥルルル
『火事ですか?救急ですか?』
「救急です」
『はい、どうされました?』
「胸が……胸が痛いんです!」
『心臓ですか?』
「たぶん、そうです……」
『わかりました。救急車がそちらに向かいます。お名前は?』
「渡辺理子です。お願いします」
早く……早く来て。胸が……。
トゥルルル
「はい」
『こちら、救急隊です。今そちらに向かっています。歩けますか?』
「……はい、大丈夫です」
『では、外に出てお待ちいただけますか?五分ほどで到着します』
「……わかりました」
外に、外に出なければ。苦しい……痛い……。理子はなんとかマンションの前に出た。
ピーポーピーポー
来た!
「渡辺です」
「はい、今後ろを開けますね」
救急隊の人は、救急車の後ろの扉を開けた。
「手すりに捕まって、乗ってください」
「はい」
後ろの扉を見る形で理子がストレッチャーに乗ると、扉が閉められた。前から救急隊の人たちが側に来た。
「熱を測ってください」
体温計を渡され、私は脇に挟む。
「血圧を測りますね」
腕にぐるぐると巻かれた。少しきつい。
その時、救急車は走りだした。
「あの、病院はどこの……」
救急隊の人の手でストレッチャーのベルトがはめられた。
きつい!
「あの、ベルトがきつい……」
理子が横にいた救急隊の人に話しかけた時だった。その人は向こう側を向いていた。しかし、体はそのままで、首が180度回転した。ブリキのオモチャのように……。
ギギギギ
「ひっ!び、病院は!?」
理子は運転席を見た。すると、フロントガラスの向こうが真っ赤だった。
「ご乗車ありがとうございます。この救急車は火の海経由、地獄行きです」
救急車は急降下していった。
「いやあああ!」
理子の叫び声は炎に呑み込まれていった。