1/28
あなたの後ろに……
香は急いでいた。
会社帰り、残業をして少し遅くなってしまったのだ。自宅の最寄り駅を出て、家に向かって歩く。大体15分くらいの道のりだ。
カッカッカッ
香のヒールの音がアスファルトに響く。
コツンコツンコツン
香のヒールの音とは、違う音がする。香の家は住宅街から少し離れた高台にある。同じ方向へ帰る人は珍しい。しかし次の角を曲がれば、ほとんど同じ方向の人はいない。
香は角を曲がり、歩き続ける。
カッカッカッ
コツンコツンコツン
香の後を追うように、足音が響く。
おかしい。こちらにはほとんど家はないはずだ。香は心持ち急いだ。
カッカッカッ
コッコッコッ
先程より歩く速度が上がったようだ。次の角を曲がれば、家だ。香は更に急いだ。そして、角を曲がる。家を目前として、恐る恐る振り返る。
誰もいない。
香がほっとして、家に入ろうと前に向き直った時だった。黒い壁がそこにはあった。いや、壁ではなく、人だ。
「ひ……」
香の声は響くことはなかった。
なぜなら、既に事切れていたからだ。