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あなたの後ろに……

 かおりは急いでいた。

 会社帰り、残業をして少し遅くなってしまったのだ。自宅の最寄り駅を出て、家に向かって歩く。大体15分くらいの道のりだ。


 カッカッカッ


 香のヒールの音がアスファルトに響く。


 コツンコツンコツン


 香のヒールの音とは、違う音がする。香の家は住宅街から少し離れた高台にある。同じ方向へ帰る人は珍しい。しかし次の角を曲がれば、ほとんど同じ方向の人はいない。


 香は角を曲がり、歩き続ける。


 カッカッカッ


 コツンコツンコツン


 香の後を追うように、足音が響く。


 おかしい。こちらにはほとんど家はないはずだ。香は心持ち急いだ。


 カッカッカッ


 コッコッコッ


 先程より歩く速度が上がったようだ。次の角を曲がれば、家だ。香は更に急いだ。そして、角を曲がる。家を目前として、恐る恐る振り返る。


 誰もいない。


 香がほっとして、家に入ろうと前に向き直った時だった。黒い壁がそこにはあった。いや、壁ではなく、人だ。


「ひ……」


 香の声は響くことはなかった。

 なぜなら、既に事切れていたからだ。



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