プロローグ
──死なないで、お願い、死なないで。
土煙舞う瓦礫の中。辺りには女性のものらしい高い声がこだましている。涙混じりの悲痛な叫び声。崩れた建物の影に隠れるように、一人の女が背を丸めて跪いていた。
──お願いよ。目を開けて……っ。
透明を帯びた白色のベール。華奢な身体。どこかの王族らしい衣服に身を包んだ高貴な雰囲気の女性は、涙を流しながら必死に誰かを抱きかかえていた。少しだけ見えるその人物の脚は逞しい。おそらく男性だろう。
少女は女性の背後から、その光景をボンヤリと見ていた。
ふと、視点が変わる。少女は俯く女性の横顔を見ていた。
緩くカールしている金色の髪の毛、涙に縁取られた翡翠色の瞳。悲痛そうに歪んだ表情を見て、少女はこみ上げてくる何かを感じた。喉の奥が苦しい。視界が滲んでくる。
──お願い、私を置いて行かないで……っ!
ぎゅっと固く閉じられた目から、一滴の涙がポトリと落ちていく。重力に従いスローモーションで落ちていったそれは、地に落ちた瞬間四つの色鮮やかな玉に分かれて飛び散った。
少女は足元に転がっている、玉の一つをそっと手に取る。親指と人差し指で作った輪程の大きさの、透明な玉。
途端に手の中の玉は青磁色に輝き始める。すると、たちまち辺りの何もかもが目映い光に包まれて消えた。