異世界視察 2
王都に着いた。
石造りの立派な建物が立ち並ぶその様子は正に西洋の町並みなのだが、その建物は新しく現在進行形で建設が進んでいるのだろう。
さすが王都、人の往来は今までと比べ物にならないくらい多く、そしてみんなお土産袋をもっている。うーんこの光景、どっかで見たような・・・・・・。
「こんなみすぼらしい世界でも最大国の王都ともなれば経済活動は盛んなのですね」
「これすごい既視感あるんだけどデジャブ?」
「そうですか?こんなに人間を見るのも私の神社の初詣くらいですよ」
「いやいや、東京とかいつもこんな・・・・・・東京か」
「はい?」
「だから東京だよ、王都に行ったらお土産を買って帰る。その意識を植え付けるだけでお土産戦争も起こり、経済も回る」
しかしお土産文化を植え付けたのは勇者か?勇者がわざわざ経済を回すのにそんな事をしないか。この世界でそんなこと思いつけるような人物なら連れ帰りたいぐらいだ。今その誘拐をやられて怒ってる最中だからやらないけど。
「そんなに凄いことですかね?」
「武神には分かんないかもしれないけど、経済を回すのは大変なことなんだよ」
ウチも苦労してるもの。ちょっとこの世界でのお土産文化とか調べてみようかな。
あの気の良さそうなおっちゃんなんかよさそうだ、あれも出来る人だな。いろいろ知ってるはず。
「おっちゃん」
「いらっしゃい、ろーるけーきがオススメだ」
「じゃあそれ1個、そういやこのお土産っていう風習はいつからあるんだい?」
「昔からあったけど商売の機会としてやり始めたのは結構最近だな」
「誰かが始めたのか」
「小規模会社から今じゃ王都一の商店へと成り上がったミッシャル・・・・・・今はダイコク屋か、の代表取締役だよ。俺の恩人でもある」
なんか日本っぼい名前に改名してるのに嫌な予感がする。それにロールケーキって・・・・・・。
「それもっと詳しく」
「うーん、どーしよっかなー」
「ロールケーキもう一つ」
「君も分かってるね」
気に入ってくれたようだ。某漫画みたいに脳くちゅくちゅとかしなくても強制的に聞き出すことは出来るけど手荒なマネはしたくない。
「腹は黒いわ、交渉は上手いわ、気遣いはできるわ、発想はぽんぽん出てくるわで語弊を構わず言うなら商売のバケモノのような人だったね。ほら、恩人って言うのは傾いてたこの店をろーるけーきで立て直してくれたんだよ」
「足を向けて寝られませんね」
「まったくだよ」
「すみません、忙しい中長話をしてしまって」
「いいよ、金払いのいい客は貴重だからね」
内政無双?っていうか商業無双。前世は商社のサラリーマンとかかな?ほぼ確定的に日本人だな。一応会っておくか。前世の記憶だけでチートとかではなさそうだし。
「びー・・・・・・しゃ門天、ここのダイコク屋の取締役に会いに行くぞ」
「代表取締役社長とかそんなに簡単に会えるものですかねぇ」
びーちゃんは正しかった。数日待てと言われた。それにこの感じだと急ぎの用が入ったりして日付どうり会えないやつだ。忙しそうだ、繁盛してるもん。逆に考えれば、よく分かんない怪しい奴にもとりあえず会おうという心がけが商人として立派である。
あ、でもせっかく神なんだから神として会いに行けばいいじゃん。業務に影響が出ないように時間止めるか。どっかの牛乳戦隊のチビと違って、呼吸しても大丈夫だし。
「時間止めるけど大丈夫だよね?」
「まぁ万が一、こんな世界の田舎神が怒ってきても黙らせますから」
「この世界の統括神を田舎って・・・・・・」
時間を止めてダイコク屋に忍び込む。時間を止めたからと言ってアンナコトやコンナコトはしない。今までやったこともありません。手当り次第孕ませるどっかの最高神じゃないから。あ、これ怒られる?
代表取締役社長室を元気よく開ける。堅苦しいと萎縮しちゃうし明るくいこう。
「やぁ、私はヤマト。日本の最高神だ」
……。
幼女の時、神さま名乗ると胡散臭いって自分で言ってた気がする。俺も気をつけよう、とか言ってたじゃん。冷静になるとこんな軽かったら神さまとしての威厳がっ!
びーちゃんすっごい冷たい目してるよ、こりゃ絶対後で怒られる。
「お供しております、毘沙門天です」
「こ、これはどうも。外の異変は神さま方の御業ですかな?」
「あなたも忙しいでしょうから迷惑にならないようにとヤマト様が気を使ってくださったのです」
「お気遣い頂き感謝申し上げます。ここまでするからには私になにか用事があるのでしょう?」
ナイスだびーちゃん。上手く上下関係ができた。もう私いらないんじゃね?
「単刀直入にあんた日本の方だろ?転生?」
「日本の神さま直々に伺って下さるとは恐悦至極。私は転生、というより転移でしたな。気がついたら道の真ん中に放り出されていまして、ここの商人の方にお世話になったんですよ」
若干脳筋ではあるが一応秘書的ポジションなのでびーちゃんにメモを取らせておく。
「で、チートは?」
「いやぁ、お恥ずかしながら前世では三十も超えたいい年してそういう想像もしてしましたが実際転生してみると神様は授けてくれないものですね」
恥ずかしそうに頬をかく彼の憧れがあったからこそここにいるのは皮肉なものだ。
「でもちょっとした常時発動型のスキルみたいのは持ってるみたいですけどね」
任せておいた解析結果を毘沙門天が告げる。人間信用しないのが吉だ。オークションでどれだけ騙されたか……。あのタペストリーとか……。
「商売が微妙にうまくいくスキルですね。まぁ誤差みたいなスキルですけどよく活かされてるようで」
「ありがとうございます、周りの方のおかげです」
「まぁ、ちょっと(ズルしてないか)見に来ただけなんだ。地球に帰りたいなら連れてくけれどここでの生活があるでしょ?」
「はい、それに日本のようにシステムが完成されてない方が燃えますので」
「いいことだ」
このひと多分日本でも優秀だったんだろうな。向上心があって適応力もある、ズルはしてないようだしここで楽しんでるようだから放置でも構わないや。惜しいから死んだあと魂だけ日本に戻るようにするか。
「じゃあね、やりすぎないように調整しながらがんばってね」
「わざわざすいませんでした、励みます」
ビーちゃんが一礼してから転移し、魔術を解いた。あ、さっきの時点で魂帰還の神術はかけておいた。
「あの、ヤマト様」
「ん?」
「勇者の話は?」
「……。忘れました」
そのあと目的を忘れたことと神の威厳についてと挙げられて小言をくらったのは仕方ないことだと思うけれど、私の趣味について小言を言うのはやめてほしい。お前のフィギュア作って下界に流してやろうか、コラ。その控えめな胸を巨大化させた上でな!!!