BLUE TRANSPARENCY〜限りなく透明に近いブルー〜
僕は灰色の街を歩いていた。見るものすべてが、くすんで見えていた。
それは自分の憂鬱のせいだ。憂鬱の原因は、たいしたことではない。
友達からのメールの返信がすぐに来なかったとか、食べたかったパンが売り切れだったとか、そんなこと。 つまらない人生。つまらない日々。つまらない時間。僕は、つまらない一瞬の積み重ねの中で生きている。
こんな時、人はどんな夢を見るのだろう?鳥になって大空を羽ばたく夢?それとも、愛しい人に出会う夢?
夢ってなんだろう?
その僕の質問は、二週間後に答えを与えられた。彼女によって。
「夢?夢なんて見るだけ無駄なものよ」
彼女は、いつの間にかうちにいた。いつの間にかというのは語弊があるかもしれないけれど、僕の感覚的には、”いつの間にか”で合っていると思う。
彼女はいつも、Tシャツにショートパンツという格好で、うちにいた。
肩に届くぐらいの茶色がかった黒い髪はさらさらで、とてもきれいな瞳をしていた。一見、表情が乏しいせいで冷たい印象を受けるが、実際はそんなこともない。
彼女は、僕のこのつまらない日常をおもしろいと言った。
僕が大学なり、バイトなりから帰ってくると、僕のつまらない一日のことを尋ねてくる。
「ねぇ、今日のこと聞かせて」
僕のつまらない一日を話す間、彼女はたいていくすくすと笑いながら聞いていた。おもしろい話などありはしないのに。おもしろいと言っては、ふふっと笑った。
反対に彼女のことを聞くと、決まって「うーん」という返事が返ってきた。
僕がいない間、彼女が何をしているのかは不明だった。
僕の毎日は、つまらないばかりではなくなっていた。彼女がいなくなるまでは。 彼女は、さよならも言わずにいなくなった。
彼女がうちにいたのは、だいたい一ヶ月くらいのものだった。
けれど、何年も一緒にいたような気がしていた。
もう、僕の話を聞いてくれる人はいない。また、つまらない毎日が戻ってくる。ただ、つまらない一瞬ばかりではないかもしれない。これから先も、何か面白いことが待っているかもしれない。そんな風に考えている自分がいた。
僕は空を見上げた。青く澄み渡る空だった。
彼女みたいだ、と思った。青。寒色。冷たい色。それでも青空は心を和ませる。
何故だろう?
彼女のまとう雰囲気にも、そんな不思議さがあった。彼女の雰囲気に色をつけるとしたら、ブルー。それも、とても透明感のある色。
彼女に一番似合う色は……限りなく透明に近いブルー。
僕は、その透き通るようなブルーを思い浮かべた。