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何度だって、言い聞かせてきた。


俺は人を愛している。まだ、愛せていると


けれど・・・


『これより悪しき力を持ったこのものを処刑する!』


磔にされた体。痛め付けられ意識は朦朧とし、食事は最低限死なない程度の細やかなもの


あの日、森で絶望した自分は姿を隠すこともせずに町におりた。


死にたかったのかもしれない。


家族も死に自分だけが生き残る孤独に耐えられるはずもなかった


痩せほそった体に、摩耗した心


理性はとうに吹き飛んでいた


(愛している)


『この者はある森に住む一族の生き残りである!この者達は不可思議な薬を作り、人々を惑わす魔女の血をひくものだ!』


(愛している)


『これは、生き延びた最後の魔女だ!』


(愛して・・・ーー)


飢饉や貧しさに困窮した者達が周りを取り囲み言う


魔女を殺せ!


殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!


何かを犠牲にし、自らが幸せになることを疑わない。なんて傲慢で利己的。なんと醜いことか


『神は、我々に祝福をくださるだろう!何故ならば世界を汚す者らを駆逐し、浄化するのだから!』


神?その瞬間、ナニカがそっと囁いた


本当に、人は愛するに値するのか?


(当然だ。森は、全てを許容し内包する。そのように自らも生きなければ。だから、人を愛する。愛さなければ)


森を殺し、一族を殺し、ただ利益の為に幾重もの命を踏みにじるニンゲンに何の価値があるというのか


お前は嘘をついている。わかるだろう?


(違う。父さんと母さんは・・・)


その父と母を殺した。森も焼かれた。周りを見てみろ。お前が死ねば、救われると思っている人間達の顔を。


(俺は・・・)


その瞬間、何処からかブツリと切れる音がした。


『神は魔女を赦さず、死した後も罰を与えることだろう!』


そう言ったと同時に火が放たれた


燃え盛る炎に呑まれ焼かれながら、必死に声をだした


【決して、決して赦さぬ!愚かな人間ども。森の祝福を手放し、恩を忘れた醜き者よ!聞け!我の生まれた東の森に呪いをかけよう!あの森の木々は毒を放ち、土地は枯れ、実りもなき場所となろう!悔いるが良い!我ら一族の怒りに触れた貴様らに、我らの森を触れなどさせぬ!】


一度認めれば、なんてことない。真っ黒などろどろとした感情


自らが育った森の木々達に人に侵略されぬように人に有害な毒を吐く木を森を囲うように動かすように指示する


死にかけた森を守るためにもこれが最善


魔女?上等だ。そう思いたいのであれば好きにすればいい。


許さない。許せる筈がない。いつだって慈しんできた。深緑の瞳を気味悪がり石を投げられても、陰口を叩かれても、それが人の本質ではないと。環境が、この苦しい治世がそうさせるのだと。


けれど、この憎しみを他のどんな感情に昇華させることも不可能だ



怯えたような周囲の人間共を嘲笑いながら、熱さなど微塵も感じさせぬ顔で目を閉じる


(愛している。)


先ほどまで自分に言い聞かせていた言葉を心で何度も呟く。今度は人間にではなく、森と自らが愛したあの場所に。


遠くなる意識。最後まで悲鳴は上げない。


愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。


沢山の愛と感謝と、そして別れを込めて



意識が完全にブラックアウトする寸前に聞こえた気がしたその言葉に微笑みを浮かべて、それだけであふれでる憎しみを一瞬薄れさせ笑って最後を迎えられた



(おやすみ。いとしい私の子。わたしも、あいしているよ)



ああ、森のこえ・・・が、聞こ・・・え・・・







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