第八話
「少し手伝え」
そう言ってローランドがエレンを連れて来たのは様々な露店の並ぶ区画だった。しかし昨日見た露店と比べると全体的に簡素な雰囲気がある。
「ここは?」
エレンが尋ねる。
「旅人用の市場だ。俺たちのような旅人が路銀を稼ぐために旅先で手に入れた珍品とかを売るための所だ。」
その答えに彼女は生返事を返し、再び尋ねる。
「で、ここで何すんの?」
「決まっているだろ?俺たちも路銀を稼ぐんだよ」
当然とばかりに彼は答えた。
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「銀貨一枚になります」
ローランドはあの低く、唸るような声で客に告げた。客に渡されたコインを確認し、青い液体の入った小瓶を渡す。客が立ち去ったのを冷めた目で見ながら受け取った銀貨をエレンへ放った。
「……客商売するのにさ、その態度はどうなの?」
銀貨を受け取って袋へ入れながらジト目で見る。彼は何の反応も示さずにいたが、もともと愛想のかけらもない男なのだから仕方がないと割り切った。
まだ彼と会って四日目だが、彼のコミュニケーション能力の低さは分かった。自分のような子供(認めたくはないが、彼はそう認識している)となら平気だが大人となると激しく人見知りする。無愛想な態度はそれが原因だろう。事実、自分に対してはそれなりに話すのだから。
「ところでこんなのどこで手に入れたの?」
敷いた厚手の布の上には、色とりどりの液体の入った小瓶や謎の粉末の入った木箱などが並んでいる。怪しげな文字の書かれた札や、トカゲらしき生き物のミイラといった用途不明の品まである。
「作った」
新たな客の相手を終えたローランドがまたコインを投げ渡しながら答えた。
「え?」
思わず聞き返す。
「だから作ったんだよ、錬金術とかで」
イラついた声で返事が返ってくる。
「錬金術まで使えるの?」
といっても詳しくは知らないが。ただとても頭のよさそうなイメージはあった。
「少しな、っと」
また客が来たのだろう、あわてて前へ注意を戻した。
それにしてもこの男は本当に何者なのか。まぁ自分に害がなければ構わないのだが。
「jlkgjrfj;lskd」
聞いたことのない言葉が聞こえてきた。声のした方を見ると、そこにはローランドと同じように黒い髪と黄色い肌の少年が立っていた。
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「日本語?」
「!?」
久しく耳にしなかった言葉が聞こえた。見れば一人の少年が商品の一つの札を見て目を瞠っていた。
その少年はよそ者の集まるこの区画の中でも一際異色の存在だった。
この国、いや世界の中では決して見られない服に身を包んでいる。目も髪も黒く、黄色い肌。彫の浅い顔立ち。華奢な骨格。鬼人の特徴を兼ね備えているが、小奇麗に整えられた柔らかな髪からは最大の特徴である角が見えなかった。そしてあの言葉。
「お前、日本人か?」
口にするたび郷愁の念に駆られる言語を使い、問いかける。少年はその大き目な眼を見開き、頷いた。