第三話
「……大体わかった」
男はローブの下からペンと黒いインクを取り出し、自分の右腕に直接書き込んでいく。
定規も用いずに正確な直線に図形、そして文字を書き連ねていく。その様子は手慣れていた。
右腕が幾何学模様と文字で真黒になったころようやく男はペンを置いた。それまでに僅か五分も経っていない。
そして線が何本か引かれているだけの右掌を少女の胸、烙印の上に置く。彼女の顔では嫌悪と屈辱の色が濃くなっていたが男は気にしない。
意識を集中する。魂を意識する。心臓の位置にある、魂を。次に体中を駆け巡っている神秘の力とその流れ。
そしてその力を右腕へと流し込む。
書き込まれた簡易魔方陣が熱を発し、掌から烙印へと力は流れていく。少女の顔が苦痛に染まる。黒いインクで描かれたのにも関わらず熱された鉄のように真っ赤な右腕。おそらく烙印も同様に赤くなっているだろう。力に対する抵抗力の低い少女には凄まじい痛みが襲いかかっているが、動けない。悶えることさえ許されていなかった。
十分――少女にとっては果てしなく長い間――が過ぎたとき、男は手を離しと、少女は気を失っていたらしく崩れ落ちた。