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「なあ、こいつじゃなくねえか?」
革の鎧を身に着けたはげ頭の男が仲間に声をかけた。
男たちは皆体格がよく、武器を装備している。手入れのなされていない髭と髪、口唇から覗く黄色っぽい歯と粗暴な雰囲気が涼たちに彼らが危険な相手だと告げる。
「だがよ、この薄汚い格好はまさにあいつじゃねえか。チビだしよ」
答えたのはひょろりと背の高い男。一見、貧弱に見えたが、肩周りや腕にはしっかりと筋肉がついている。
「わっ!?」
エレンの悲鳴があがった。それまで黙っていた恰幅の良い男が唐突にフードを引き下げたのだ。
彼女の白銀の髪がふわりと溢れた。一瞬、細長く尖った褐色の耳が露わになる。
「ダークエルフか、こいつ」
涼は、その口にするのも汚らわしいと言わんばかりの言葉によって、周りの人々から発される空気が変わったのを感じた。それまで同情の視線を彼女に送っていたのが、急に軽蔑の籠ったものになった。
ちっ、心配して損したぜ、嫌なものを見た、教会に行って清めてもらわねば。周囲で呟かれる悪意の言葉。エレンは黙って俯いた。
教会に連れて行ってくれ。一人の若者が叫ぶ。それを皮切りに次々と男たちへと請願の声が飛ぶ。
その醜い悪魔の子を殺せ、焼き殺せ、俺たちを救ってくれ。
「そこまで言われちゃあ仕方がない」
禿頭の男がにやりと笑いながらエレンの肩を鷲掴みする。
「善良なる神の子らよ!この呪われし邪教徒は我々が責任を持って教会へと引き渡そう!」
恰幅の良い男がまるで遠征へ向かう将のように高らかと宣言した。
「なんだよ、これ」
涼の呆然とした声は周囲の歓声に呑み込まれ、誰にも届かなかった。