第十五話
闇の中でローランドは一人、静かに座していた。
僅かに目を開いているが、何も見ていない。呼吸は深く吸い、細く、長く吐くことを繰り返す。
教会の屋根裏にあるこの空間で、彼は昨日から今までこうしている。
石で作られた厚い壁は陽光を通さないため、時間の感覚を薄れさせていく。
「何だ?」
背後から忍び寄る人物に、一切身動きせずに問いかけた。
彼はこの暗闇の中でも、ほぼ完全に周囲の生物の存在を感じとれた。
彼にとって、闇は敵ではない。
「命令通り、一度戻って来ました」
低い、精悍な男の声が響いた。狭い石造りの部屋に声が反響する。
「特に何も動きはありません」
「そうか」
男の報告に、やはり目も向けずに応える。が、男が気を悪くすることもない。
「本当は、彼女のほうがこういったことは向いているんですけどね」
能力的にはな、とローランドは応え、続けた。
「だがそれ以上に性格が向いていない。それにアレには別の仕事がある」
「わかってます」
それを最後に男は立ち去り、ローランドも一際長い時間をかけて息を吐いたあと、立ち上がった。
すでに酒気も暴力の熱も抜けていた。