第十四話
「誰?」
エレンは何かの気配を感じて目が覚めた。部屋を見渡すと、昨日きちんと閉めたはずの窓が開いていた。特に盗まれて困るものもないし、自分の体に何かされた様子もない。夜はまだ明けておらず、部屋のなかは暗い。
一応、部屋の中を見て回る。すると、部屋の備品である簡素なテーブルの上に小さな革の袋が置いてあった。その袋を重しにして、「ローランド」と書かれた小さな木片があった。まだ文字を覚えている最中だが、自分と彼の名前のスペルくらいは読める。書くことはできないが。これを彼が置いていったのならあの気配は自分の主人だったようだ。
ふと、脚に何かが触れた。弾かれたように下を見る。
「猫?」
そこには一匹の猫がいた。部屋の闇に溶け込むほどに黒い猫である。スマートな体型で、エレンの脚に鼻を擦り付けている。細められた目から覗く瞳は宝石のように美しい緑だった。
猫はひとしきりその行動を続けると、おそるおそる自分に手を伸ばそうとしているエレンを一瞥し、開いたままの窓から外へ飛び出していった。
その態度に少しムッとしたが、どうしようもないので早目の朝食をとることにした。
ちびちびと塩辛い干し肉と硬いパンをかじって水で流し込む作業を続けていると、同居人が起き上がった。自分の主と同じ人種であろう彼は、多分平均を下回っているであろう身長で、力仕事とは無縁そうな細くて華奢な――彼女よりはましだが――体で、年齢のわかりにくい彫りの浅い顔をこちらに向けた。