第十三話
ローランドは決して自分の戦闘能力に自信を持っていない。しかし己が努めて冷静に相手を観察し、分析する事ができることはわかっていた。
そして今、その相手が怒り狂っていることを理解していた。
男が雄叫びをあげて向かって来る。その左手に握られた剣が振りかぶられ、勢いよく振りおろされる。ローランドは、その腕に 自身の左手を添え、反らしながら振りを加速させ、いなし、体さばきで避けた。
ローランドは怒りに飲まれた人間がどうなるか知っていた。
怒りは動物にとって重要なものだ。怒ると腕に血液が集まり、興奮状態になって痛みにたいして鈍感になる。つまり、戦闘体勢にはいる。ただし、それがメリットになるのは野生の動物の闘いか、素人の喧嘩まで。それよりひとつ上の闘いではデメリットばかりだ。筋肉が硬くなり、動きが単調になる。攻撃が大振りになり、冷静な思考ができなくなる。もちろん闘いにおいて気迫は大切だし、怒りはそれを産むひとつの要素だ。だが相手を圧倒できなければ寧ろ落ち着かせてしまう。そして男にはローランドを呑むほどの気迫はなかった。
彼は確実に剣を処理した。男は力任せに振り抜いてしまったため、体勢を崩す。ローランドは男の剣を持っている左手を捻り上げながら後ろのまわる。
そのまま一切の躊躇をせず、一気に腕をへし折った。
またしても男の悲鳴が響き渡る。
「喧しいな」
ポツリと呟くと、男の髪を掴み、頭を後ろに反らさせる。そしてさらけ出された喉に、肘をうちおろした。男の悲鳴がか細いものに変わる。顔中の穴から様々な液体を垂れ流し、あまりの苦痛と恐怖に悶える男を開放する。無様にたおれこみ、のたうち回る。
そこからはただの作業が繰り返されるだけだった。
始めは野次馬根性剥き出しで見物し、囃し立てていた他の客も、喧嘩なら見慣れているはずの店員も、顔を青くして、一言も喋らない。
自分たちとは違う、淡々と人間を処理していく様子を見て、その場にいた全員がそう思った。彼らの目は、狂った人間を見るそれだった。