第十一話
「なんだよ、あいつ」
涼は不満だった。
いつのまにかこの意味の分からない場所にいたのだ。そんな理不尽な目に遭ったのだからもっと同情してくれてもいいではないか。それなのにあの男は。
涼が愚痴をこぼしていると、後方から衣擦れの音が聞こえてきた。そういえばもう一人、あの男以上に胡散臭い奴がいた。
全身を布で包んだ不審極まりない人物だ。先ほどから黙っていたのとあの不愉快な男のことで忘れていた。
「は?」
不審者が何か言ったが分からなかった。くぐもった声で聞き取りにくいこともあったが、明らかに知っている言語ではなかった。そう、ここは異世界なのだ。言葉が通じるとは思えない。
言葉がつうじないのが分かったのか、黙って指を突き出した。褐色の肌の細くて小さな手だったが、傷だらけだった。
彼――彼女かもしれないが――の指が示す先を見ると、あの男から渡されたペンダントがあった。あの男のものにあまり頼りたくはなかったが、意味のないものを渡すとも思えない。掛けてみることにした。
「どう?あたしの言ってることが分かる?」
涼が付けるのを見て不審者はいった。一人称からすると女らしい。
涼は黙って頷いた。
「翻訳機能の魔具かぁ。そんなものまであるんだ」
彼女は一人感心していた。
「あんたってさ、ローランドの知り合いなの?」
「ローランド?」
そんな名前は知らない。
「ほら、さっき出てった怪しい男のこと」
そういう彼女も相当に怪しいのだが。
あの男、自分と同じ日本人のくせにそんな名前なのか。