第十話
ローランドはすぐに店を畳んで少年――浅原涼と名乗った――とエレンを連れて宿へと戻り、涼の話を聞いた。
「……そうか」
いつも通りの表情と声で特に慰めようともせずに言ってベッドの隅に腰掛けた少年を観察した。
身長は175cmほど。細く薄い体つきと手。典型的な今時の(ローランドから見て)日本人の若者だ。
「とりあえず、これを掛けておけ」
渡したのは銀の鎖でできたペンダントだった。中央には灰色の金属の板が通してあり、複雑な模様が刻まれ赤い宝石が中心についている。
「なあ、ここはどこなんだ?」
ペンダントを眺めながら言った。ため口である。その顔には不安と僅かな期待が浮かんでいる。ローランドの眉間の皺が少し深くなった。
「所謂『異世界』だと考えて差し支えない。お前も気づいているのだろう?」
しかしその期待も容赦なく切り捨てる。涼の顔に絶望が広がった。
「オレ、何かしたのか?なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだよ?」
独り言のような問いだったがその目はローランドのフードで隠された顔を見ていた。
「知らん。俺がお前に言えることは現実を見ることだ。自棄になりでもすれば、今すぐ部屋から追い出す。
俺には同郷の好があるとはいえ、害をもたらす者の世話をするつもりはない。俺がお前へ示す道は少ない」
突き放すように言って、指を一本立てる。
「一つ目。現実を受け入れ、その上で生きたいというのなら、俺について来い。
働いてはもらうが、面倒は見てやる」
二本目の指を立て、
「二つ目。現実を受け入れずにここから追い出され、一人残る。
よそ者であるお前が生きていけるかは知らんが」
指を下し、続ける。
「いきなり決めるのも難しいだろう。三日だけ待ってやる」
これ以上話すことはないと、ドアへと向かう。ふてくされた相の少年を見ていると自分の中に渦巻く複雑に入り乱れた念が湧きあがり、吹き出してしまいそうになる。
僅かな同情として、エレンに少年の相手をするよう言い置いて、荒々しい足音と共に部屋から出た。