第八幕 ~第三の殺人~
木更津一樹は、今日は仲間と共に
桃香の泊まった部屋や、その周辺を
散策していた。
一樹が真犯人を見つけたいから
協力してくれ、と言ったところ、
全員は二つ返事で了承したのだ。
一樹は桃香の部屋の外の芝生に
はいつくばって何か手掛かりはないかと
探していた。あるのは草や葉っぱばかりで、
そんなものは全く見つからない。
舌打ちしたいのを必死でこらえながらも、
彼らは辛抱強く探していた。
一樹を助けるため、そして桃香の無念を
晴らすために。復讐を望んでいる訳ではない。
彼女だって、そんなことは望んではいないから。
ただ、何故彼女が殺されたのかという理由が知りたかった。
あんなに素直でかわいいいい子を、何故、
殺したのか、と。
「そっち、何か見つかった!?」
斎藤千鶴があせったような
様子で一樹に聞いてきた。
その様子だと、彼女の方には何もなかったようだ。
一樹は黙って首を振った。
落胆したような顔になりつつも、千鶴は他の場所を
探し始める。と、北原大地が何かを発見した。
「おい、皆、来てみろよ!!」
「何が見つかったの!?」
一番先に千鶴が彼の手元を覗き込んだ。
続いて一樹、不安そうな顔をした八乙女瑠美奈
がその手を覗き込む。彼の手には、糸のようなものが握られていた。
「糸……ですか……?」
「何でこんなところに糸があるのよ?」
全員は糸をじろじろと観察したが、本当にただの糸だった。
手袋をした手で握ってみるものの、何も仕込んであったりはしない。
まあ、かなり細い糸だから何かを仕込むのは難しいとは思うが。
「大方、捨ててあったごみなんじゃないの? ちゃんとやってよね、大地」
「俺はちゃんとやってるよ!! 何か見つけたら教えろって言ったから、
ちゃんと教えたんじゃないか!!」
「二人とも、ケンカするなよ!!」
いつものようにぎゃんぎゃんと言い合う二人に、一樹が厳しい声を上げた。
瑠美奈が今にも泣きそうな顔で糸を見つめている。
「瑠美奈ちゃん、どうかしたのかい?」
「何でも、ありません……。ここに立っていると、どうしても
桃香さんのことを考えて、しまって……」
「瑠美奈ちゃん……」
しくしくとついに泣きだした瑠美奈を見て、
千鶴と大地はケンカをやめて黙り込んだ。
その後は何も見つからず、食事の時間になったので
彼らは室内に戻ったのだったーー。
そこにいたのは、全員分の食事を運んでいる崎原葉月、
苦虫を噛み潰したような顔の渚竜也、一人だけにやにやと
笑っている大江川大五郎だけだった。
睦咲莉子の姿は見えない。
「莉子さんは?」
椅子に座りながら瑠美奈が心配そうに言った。
もう二人もここでは死んでいる。
もしかしたら何かあったのでは、と思ったのだろう。
一樹たちも心配になって来て葉月に声をかけた。
「莉子さんはどうなさったんですか?」
「莉子様……?」
葉月は一樹に声をかけられて一瞬びくっとなったが、
仕事であることを思い出して何も言わなかった。
千鶴の目が怒りに燃え、今にも殴りそうに
なるのを大地が必死で押さえている。
「私が見て来ます。皆様は、先に食事をしていてください」
葉月はそのまま莉子以外の食事を配ると、
エプロンをはずして部屋を出て行った。
今日の食事は、ローストチキンをはさんだサンドイッチと
コーヒー、ちいさなチーズケーキだけだった。
いつ出られるか分からないので、食料を節約しているのだろう。
一樹たちはゆっくりを食事をしながら葉月たちを待っていた。
「食べられないんですか、竜也さん?」
瑠美奈が何気なく言った。
大地がそこに目をやると、竜也はサンドイッチをじろりと睨みつけた
だけで、全く手をつけていないのだった。
不安そうに扉をながめやっている。
と、一樹たちの目が見開かれた。
カシャンッ、とミルクピッチャーが床に落ちて割れたのだ。
それだけだったら、そんなに驚きはしなかっただろう。
竜也は、瑠美奈の言葉にいきなり震えだしたのだった。
まるで、ここにいる幼い少女が、強大な力を持った
怪物ででもあるかのように。
「た、食べるよ? ちょっと睦咲さんが心配でね」
「それはよかったです」
竜也は何事もなかったかのようにサンドイッチを掴むと
食べ始めた。瑠美奈もにこりと笑って食事を再開する。
「きゃあああああああああああっ!!」
悲鳴が上がったのは、そのすぐ後だった。
一番先に竜也が立ち上がり、二番目に立ち上がったのは一樹だった。
瑠美奈、千鶴、大地の順で立ち上がり、そのまま五人は
扉を開けると声のした方に走り出した。
おっくうそうに大五郎も立ち上がり、幾分緩慢な動きで
彼らの後を追いかける。
「葉月さん!! 返事をしてください!! 葉月さん!!」
「莉子さん!! 聞こえますか、莉子さん!!」
葉月と莉子の名を呼びながら五人は走る。
大五郎だけが名も呼ばずただ歩いていた。
と、五人がようやく葉月の姿を見つけた。
彼女は震え、莉子の部屋の前にへたりこんでいた。
血がその服に付着している。
「あ……あ……あ……」
彼女の声は言葉になっていない。
葉月を押しのけるように中を見た彼らの目に映ったのは、
絶命する睦咲莉子の姿だったーー。
ついに第三の殺人が行われました。
混乱する葉月、仰天する一樹たち、
何故か驚きもせずそれを見つめる大五郎、
犯人の目的は!? そして真犯人は
誰なのか!?
次回もよろしくお願いします。